2 アリウス教皇
お楽しみください。
教皇は俺達の現実世界での姓を呼んだ。俺達三人はお互いに自己紹介をいているから知っているが、何故教皇が知っているのか。まぁ、理由は一つしかない。
さらに今のこの状況だ。周りが真っ白の空間に俺、キサキ、ハルオ、教皇の四人だけがいる。これは何だろう。異世界にワープしたとか? 元の世界に戻る? はたまた世界崩壊の前兆? ハイミが消された? 色んな事が頭をよぎる。
「待っていたよ、選ばれし君たち」
イマイチ状況を把握してない俺達に教皇が言う。そこで、今俺が一番気になっている事を聞いた。
「あの、ハイミをどうしたんですか?」
ん? とこっちを見る教皇。
「はっはっは、この状況で一番気になるのはハイミの無事かな? 彼女の事は心配いらないよ。それも含めて聞きたい事だらけだろう。全て話そう」
優しい口調で話す教皇。キサキが口を開いた。
「この不思議な現象も含めて全てが教皇の仕業なんですね? 目が覚めたら知らないベッドで目が覚めて、ゲームの中にいて。教皇の目的は何ですか? 何故あたし達三人が選ばれたんですか? 現実のあたし達はどうなってるんですか?」
今までは常に楽しそうにしていたが、やはり不安もあったんだろう。声は震えており、言葉には怒りも感じる。
「一から説明しよう。全てをな」
教皇が話し出した。
「私は、木下 昇と言う。ゲーム会社SENDOHで代表取締役社長をやっている」
「え、SENDOH? っていえばファンデスの発売元だよな。教皇はそこの社長なのか?」
ハルオが言う。
「という事は……木下さんもあたし達みたいにゲームに入って来たんですか? 知らないうちに」
続いてハイミが言う。すると木下さんはうーん、と考えて言う。
「それは少し違うんだ。説明しよう」
「私はね、物心が付く頃から毎日の様に見る夢があったんだ」
静かに話し始めた。
「夢? いきなり何ですか?」
キサキが言うが、聞きたまえ、と遮る。
「その夢は魔界から来た魔族がある国を滅ぼすという物だった」
「えっ、それって?」
俺とハイミとハルオは数日前に経験した事だ。
「その夢は毎日の様に見るんだ。それがまたリアルでな、自分もその国にいて逃げ回っている。周りではどんどん人が死んでいって、自分も殺される、と思うと目が覚めるんだ。最初は怖かったな、幼稚園生ぐらいだったからな」
黙って聞く俺達。
「でも、しばらくすると慣れてくるもので、周りの声とかを聞く余裕が出てきたりしたんだ。それで、襲っているのは魔界から来た魔族という事が分かったんだ。そして、襲われているのがルーべリアという国だった」
木下さんの話しに耳を傾ける俺達。
「さらに成長するにつれて、続きを見るようになった。その魔族がルーべリアを出て世界中で暴れるんだ。そしてこの世界、マルスカは滅亡する」
この世界はマルスカというらしい。
「世界が滅亡?」
言われてもピンと来ない。
「今あたし達がいるこの世界が?」
でも、それはあくまでも木下さんが見ていた夢だ。
「でも木下さん、それはあくまでも夢だよな? 何でゲームで全く同じ世界を作って、俺達をこの世界、マルスカに連れて来たんだ?」
ハルオが聞くと、木下さんの目の色が変わった気がした。
「魔族が襲ったのはこのマルスカだけじゃなかったんだ」
「え、それはどういう意味ですか? もしかして……」
俺の言葉にコクリと頷く木下さん。
「次に襲われたのは地球だった」
あくまでも夢の話だ。だが、夢の話しだとは思えない、嫌な感じがする。
「ルーべリアを襲った魔族は何万の大群だと聞いている?」
「ルーべリアでの伝令によると十万以上だと聞いています」
近衛騎士団の演習中の出来事だった。
「そうか。マルスカを滅ぼして地球に攻めて来た魔族は五十万に達していた。五十万は日本の自衛隊の倍の数だ。その五十万の軍団がイギリスに奇襲するんだ。それは、それこそきっちり訓練された軍隊の様だった。まずは、ロンドンが落ちた」
息を飲む。夢の話だが、今このマルスカにいる分、何かリアルがある。
「首都が落ちた後のイギリスは脆かった。次は五十万を半分に分けて、半分をアイルランドのダブリンに、残り半分は残りのイギリスの都市を攻めた。イギリス軍も反撃を試みたが、体が大きく屈強で死を恐れない竜人族、不思議な魔法を使う魔道士族の前に人は為す術無く連敗を重ねて、イギリスとアイルランドは滅亡する。それから魔族はイギリスを拠点に置くんだ。イギリスは魔族の国になり、最終的に魔族の人口は一千万人に達する」
木下さんの夢の話しだと分かっているが驚きを隠せない俺達。
「そして、世界は第三次世界大戦とも言うべき大乱へと突入する」
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