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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第二章 アリス教国ルイビンベール
16/60

8 買い物

お楽しみください。

 食堂に戻って来た。まだ満腹感はあるが、大分楽になってきた。


 食堂ではハイミが満腹で、ハルオが酔って寝ている。国王達はいなくなっていた。しかし、俺が部屋に入るとハイミが目を覚ました。


「……ん、ユウマ。どこ行ってたの?」


「ゴメン、起こしちゃったね。ちょっと夜風に当たってたんだ」


 目をこすりながら、そうなんだ、と言って欠伸をしている。


「眠そうだね。ハルオを起こして部屋に帰る?」


 うーん、としばらく考えて言った。


「もうしばらくここで喋らない? 喉が渇いたら冷蔵庫のジュースを自由に飲んでもいいらしいわよ。使用人さんが言ってた」


「そうだね。しばらくここで喋ろうか」


 ハルオを起こさない様に離れたテーブルに向かい合って座る。


「じゃあ、何を話そうか?」


 ニコニコしながら笑いかけてくるハイミ。眩しすぎる笑顔につい、ドギマギしてしまう。そうだな〜、と考えていると、食堂の扉がゆっくりと開いた。見ると、キサキがそーっと覗いていた。中にいるのが俺たち三人だというのを確認すると、素早く入って来て小声で言った。


「ねぇ、今からお城を抜け出して城下町に買い物に行かない?」


「「えーっ!?」」


 俺とハイミは、つい大きな声を出してしまった。しーっ、と人差し指を唇に当てる。とんでもない事を言うお姫様だ。いや、同級生だ。


「姫、こんな時間にお城を抜け出すなんて、本気ですか? もう、九時ですよ? 店だって開いているかどうか」


「大丈夫よ、ここ一週間は毎日抜け出してるし。右大臣に見つからなければ大丈夫。見張りの兵士は見逃してくれるわよ。店は開いているわよ」


 でも〜、とハイミは考えている。


「面白そうじゃない、ハイミ! 行こうよ! 服が欲しいって言ってたよね」


 ノリノリな俺を見て意外だという様な顔をしていたが、服を買うと聞いて行く気になったらしい。


「うん、それじゃあ行く! 姫、いいお店を知っているんですか?」


「よーし、そうこなくちゃね! 欲しい服とかある?」


「そうですねぇ〜。動きやすくて、生地の薄いワンピースがいいです」


 覚えてたんだ、と思い、ハイミを見ると、意地が悪そうにクスクスと笑っている。


「生地の薄い? このお城はそんなに暑い? まぁ、ワンピースぐらいならあると思うわよ。行きましょう!」


「はい! 所で、姫の服装も可愛いですね。その服も城下町で買ったんですか?」

 キサキはお姫様のドレスではなく、太ももぐらいの短いスカートに、パーカーを着ている。現実では制服姿しか見たことないので新鮮だ。今までは意識した事無かったが、細くて白くて綺麗な足だ。


「可愛いでしょう。城下町で買ったのよ。早速行きましょう!」


 早く行きたくて仕方ないといった感じだ。


「でも、どこから出るんですか? 秘密の抜け道があるとかですか?」


 チッチッチ、と人差し指を顔の前で左右に振る。何か古臭い動きに、つい苦笑いする。


「正面から出るわよ。兵士達は見てないフリしてくれるから」


 じゃあ、行きましょう! と盛り上がってさっさと食堂を出て行く二人。その様子を唖然と見ていると、ほら早く、とハイミに促されて俺も着いて行った。そして本当に城の正面から出て行った。



 今は夜の九時ぐらいらしいが、城下町はなかなか賑わっていた。さすがは首都だ。アリス教国は貿易が盛んで他国からの船が頻繁に出入りしている為、夜の酒場は他国からの船員で一杯だ。ルイビンベール名物のグルメが食べられるレストランも、この時間だが客が多い。


 ハイミは色々なレストランに興味がある様だが、夕食後の為か入ろうとは言わない。キサキと服の話しで盛り上がっている。そんなキサキが口を開く。


「ところでさ、こんな時ぐらいあたしには敬語使わなくていいわよ。あたしは同じ年の女の子と服を買いに行くなんてあまり無いから楽しくて仕方ないの」


「そりゃ、お姫様ですからね。その、いいんですか?」


「もちろん、いいわよ! それと、キサキって呼ぶ事! だいたいあたしはハイミ達からしたら他国のお姫様じゃない。そんなに気を使わなくていいわよ」


「う、うん、それじゃあ……キサキ、よろしくね!」


 モジモジしながらも笑顔で言うハイミ。可愛いな〜、と見ていると、キサキがバッとハイミに抱き付いた。


「キャー、ハイミってば可愛い! 抱きしめちゃおう!」


「ちょ、ちょっとキサキ、何するの? 苦しいってば」


 ごちそうさま、とハイミから離れるキサキ。クッソ〜、キサキ、いや、里宮さん羨ましい! これも一種の女の子の武器か、と思いながら地団駄を踏む。


「ん、どうしたの? ユウマも抱き付きたいなら抱き付けばいいじゃない」


 えーっ、と驚く。それが出来れば苦労はしないよ。


「ちょっと、ユウマ。わたしに抱き付きたいの? うーん、ダメ! は、恥ずかしいし」


 照れているのか、手を後ろで組んで顔が赤くなっている。すると、隣りでキサキがうーん、と考えて言った。


「じゃあ、あたしに抱き付いていいわよ。今ならハイミの残り香も付いてくるわよ! さあ!」


 この積極性は何だろう。学校の優等生な里宮さんとは別人みたいだ。でも悪くない話しだ。キサキに抱き付いて、さらにハイミの残り香付き。悩むな〜、と考えているとハイミが言った。


「ゆ、ユウマ、ダメー!」


 おわっ、とビックリした。目を瞑り、下を向いている。キサキがふふっ、と笑う。


「冗談よ、ハイミ。ハイミの残り香はあたしの物だからね!」


 そうじゃなくて、とハイミ。二人でキャーキャー言い合いながらスタスタ歩いて行く。それを無言で付いて行く俺。……惜しい事をしたかな。



 十五分ぐらい歩くと店に着いた。


「ここよ。『ユニットクロス』略して『ユニクロ』いい服が沢山あるわよ」


 ゆ、ユニクロって。マジか、と思っていると、キサキが俺の気持ちを察したらしく、クスクスと笑っている。


「わぁ、早速入りましょう!」


 ハイミが入って行った。


 かなり広い店だ。一階は武器屋と防具屋で、二階が道具屋で、三階が服屋になっている。そういえばこの世界はゲームだった。


「それにしてもこんな時間までやってるんだね」


 キサキに尋ねる。


「この世界はゲームだからじゃない?」


 やっぱりそういう事かな。



 ……女の子の買い物は長かった。念の為に俺も自分用とハルオに普段着を買ったが、ほんの五分で選び終わった。レジを済ませてハイミ達を待っているが、待ち合わせ場所に戻って来ない。一時間は経っている。時間を決めておけばよかった。


 一時間半ぐらいで戻って来た。待ちくたびれてウトウトしてしまっていた。欠伸をして目をこする。


「おまたせ、ユウマ」


 手を後ろに組んで満面の笑みのハイミが立っていた。服装はさっきまでの魔術師の服からルーべリアで着ていた様なワンピースに変わっていた。


「うわ〜、すごく似合ってるよ、ハイミ!」


「本当に!? 嬉しい!」


 可愛すぎる。『天使すぎるヒロイン』再降臨だ。ニコニコしながらくるりと回ったりポーズを取ったりしている。すると、キサキも戻って来た。手には荷物を持っている。ほとんどがハイミの物の様だ。お姫様が荷物持ちをしている。さすがは学級委員長、気が利く。


 店を出るとご機嫌なハイミが早速俺の右腕にに抱き付いて来た。俺の右腕はハイミの特等席だ。そして、店の事を一生懸命話してくる。品揃えや、可愛い服を着た店員さんの事。ルーべリアには無いというスタンプカードの事。楽しそうに話すハイミ。右腕の柔らかい感触が気になるが、ハイミの話しを聞いていたらいつの間にか気にならなくなっていた。



 お城に着くと、ハイミがキサキにお礼を言う。


「ありがとう、キサキ。とっても楽しかった。次に行く時はもっとゆっくり見て行きたいな」


 あれより長い買い物は俺は勘弁だ。


「うん、楽しんでもらえてよかった。また次があったらいいわね。じゃあ、あたしは部屋に帰るわね、おやすみ」


 おやすみ、と俺とハイミ。そういえば、店を出てから言葉が少なかった。眠かったのかな? いつまハイテンションなのに。


「じゃあ、わたし達も部屋に帰りましょう」


 結局ハイミは店を出てからお城の部屋に着くまでずっと俺の右腕に抱き付いていた。


お読みいただきありがとうございます。

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