7 平和な喧騒3 ―大人の色気?―
お楽しみください。
城の食堂で宴は行われた。参加者は少なく、俺、ハイミ、ハルオ、国王、王妃、キサキ、右大臣、騎士団長、あとは城の使用人が数人。使用人は国王や王妃の世話をしていて、ほとんど食べてない。参加者が少ないのは、ルーべリアが魔物に襲われた為、ほとんどの兵士は交代で見張りに付いたり、襲って来た時にいつでも向かい打てるようにスタンバイしてるらしい。国王や右大臣や騎士団長も酒は飲まずにジュースを飲んでいる。どうせ俺やハイミは未成年だからお酒は飲まないが、ハルオは国王に促されて飲み始めた。
「これは美味しい! こんなに美味しいお酒は初めて飲みました! 葡萄酒ですか?」
「その通り。お目が高いな。さぁ、どんどん飲むがいい」
はい、と飲む。ハルオに耳打ちする。
「ハルオって大学生ならやっぱり現実世界でもお酒はよく飲むの? 大学生ってサークルの飲み会とかが多いんじゃないの?」
「いや、そんなに飲まないんだけどな。家で少し飲むぐらいだ。この葡萄酒は飲みやすいぞ」
苦笑いしながら言う。大学生は飲み会ばかりやってるのかと思った。
ルイビンベールは美食の国だというが、確かに料理は美味い。出ている料理は、肉料理、魚料理、野菜サラダという、現実世界と変わらない物ばかりである。フルーツやアイスクリーム等のデザートもある。
俺は現実では、体が弱い為あまり食べれない。学校の給食も女子よりも食べれないんじゃないだろうか。
しかし、今はいくらでも入る。昨日からあまり食べてないという事もあるか。
隣りでは取り皿に沢山料理を取って、フィッシュカレーも皿に大盛りよそってバクバク食べている。凄すぎてつい、見てしまう。
「うわ〜、どれもおいしい! 何これ、初めて食べた! ……何見てるの、ユウマ。 あげないわよ。自分で取って来なさいよ」
「そ、そんなに急いで食べなくても料理は逃げないよ。まだあんなに沢山あるんだから」
う、うるさいわね、と言うがまだ食べている。まぁ、確かに美味しいし、せっかくだから俺も食べようと思う。こんなに食べるのは初めてだ。今までは食事を楽しむ、なんて事はなかった。薬を飲む為に食べるという感じか。
「よーし、ハイミに負けないぞ!」
取り皿に沢山取って戻って来る。
「おっ、ユウマ、わたしと張り合う気? 負けないんだからね!」
お互いに負けじと食べては取りに行ってを繰り返す。国王達は、よく食べるな〜、と笑いながら見ている。
一時間後、俺とハイミは食べ過ぎて動けなくなり、ハルオは葡萄酒を飲み過ぎて酔い潰れていた。
「うわー、気持ち悪い。食べ過ぎるとこんなに苦しいんだ」
風に当たろうと食堂を出て城内をブラブラしている。
俺は自宅のベランダが好きだった。勉強やゲームの息抜きで、体調の良い時はベランダでボーッと夜空を見ていた。
そんな感じのベランダはないかなと歩いていると見つけた。歩いている廊下の突き当たりが少し広めのバルコニーになっていた。綺麗なガラスの扉を開けて入ると、テーブルと椅子が二つあった。ここに来るまでの廊下にも誰もいなかったし、人通りの少ない場所なんだろう。椅子に座ると満腹感からか眠気がきた。テーブルに伏せて寝てしまった。
ぎぃ、というバルコニーの扉を開ける音で飛び起きた。寝ていたとしても三十分足らずだろうが、ここはゲームの世界とはいえ、他国の城内だ。変な行動をすると、逮捕はされないまでも事情聴取をされたりしないだろうか。そんな事を考えながら振り返ると、意外な人物がいた。
「あら、先客かしら。私の秘密の特等席に誰かしら?」
王妃だった。しまった、と思う。王妃の休憩場だったのか。急いで立ち上がって謝る。
「申し訳ありません、王妃様! すぐに出ていきます!」
頭を深く下げて謝る。すると、おや、と言い優しい口調で言う。
「あなたは、ユウマですね。いいんですよ。お座りなさい。ちょうどいい、旅の話しでも聞かせてもらおうかしら」
肩を押され、椅子にどすっと座る。王妃も隣りの椅子に座ると妙に椅子を近づけてくる。少し照れてしまってしたを向くが、今度は顔を下から覗きこんでくる。
「ちょっと、王妃様!」
ビックリして少し声を上げてしまった。ハイミといい、王妃といい、何でこの世界の女性はくっついてくるんだろうと思う。
「もう、ユウマ、照れてるんですね。こんなオバさんに。ハイミがヤキモチを妬きますよ」
王妃は、十七歳のキサキ、本当はティアラ姫の母親だから四十歳ぐらいだろう。だが、四十歳には見えない。ティアラ姫の年の離れた姉だと言われても、知らなければ納得しそうだ。
さらに色気が半端ない。ハイミだって女の子としての魅力はある。可愛くて、スタイルもいい。出る所は物凄く出ている。しかし、王妃はその全てを凌駕している。年の功か、ハイミがこの境地に達するにはまだ数年の熟成が必要だろう。……あんなに食べてばっかりで大丈夫だろうか。
「どうしたの、ユウマ?」
下を向いてモジモジしている俺を見て身体を寄せてきて、何と俺の椅子の端に座ってきた。少し大きめの椅子だ。一人では大きいぐらいだが、二人は少し狭い。王妃が密着してくる。ということは、いつものアレが腕に当たってきた。
「ちょっと、王妃様、ち、近いですよ」
「いいから、いいから」
と気にしてない。そこで、俺は気付いた。王妃は酔っている。顔に出てないし、足元も比較的しっかりしているが、さっき、ハルオに負けじと飲み比べしていた。使用人に怒られながら。
どうしよう、と思う。酒に酔った人の解放の仕方なんて分からない。そんな事を考えている間にも王妃は体をくっつけてくる。大人の女性の香りと胸の感触で気が遠くなりそうだが、次の一言には驚いた。
「眠くなってきちゃったわ〜。ユウマ、抱き枕になってくれない?」
「え、ええー!」
耳元で囁くように言われて、もう別にいいかなと思えてきた。よ、喜んで! と言いかけた所でバルコニーの扉がバンッと開いた。怒った顔の使用人が入って来た。
「王妃様、またやってるんですか!? 目を放すとすぐにこれです! 酔うと若い男性に絡む癖を直して下さい! だからお酒は控えるように言ってるじゃありませんか!」
「何言ってるのよ、ユウマから私を誘惑してきたのよ」
「えっ、違いますよ!」
とんでもない言葉に驚いて否定する。
「王妃様、嘘を言わないで下さい。ユウマ殿の困った顔を見て下さい」
「ユウマも満更でもない感じだったけど?」
ぶんぶんと首を横に振る。そうかしら〜、と横目でこっちを見る王妃。とにかく来て下さい! と手を引かれてバルコニーを出て行く。
「あー、もう。じゃあね〜、ユウマ」
もう今はおしとやかそうだった王妃様の面影が無くなっている。投げキッスをしてくる王妃。
「何やってるんですか、王妃様! ユウマ殿、王妃様は明日には記憶が無くなってるんで安心して下さい」
そんなに酔っているのかと思いながら、大人の女性の色気に触れた時間は終わった。
お読みいただきありがとうございます。




