可能性はゼロだった
二話目ですが、今回のみ第三者視点です。
絶対的な自信が、あった。
「ずっと好きでした。付き合ってください」
振り向かせることができると、思っていた。
「……ごめんなさい」
「、どうして?」
「わたし、お付き合いしている人がいます」
――ああ、知ってるよ、そんなこと。
でも、奪えると思っていた。その自信が、僕にはあった。
「絶対ダメ、ですか」
「え?」
「あんなやつ、やめればいいじゃないか」
彼女に付き合っている人がいるのは知ってたし、それが誰かだって知っていた。
でも、僕だって彼女が好きなんだ。誰よりも――「あの男」よりも、彼女を愛しているんだ。僕には、その自信がある。
「ねえ、あんなやつなんかやめて、僕にしなよ」
「え、と……」
「――残念だけど」
そこに現れたのは、僕がこの世で一番嫌いな人間――「あの男」だった。
「彼女はぼくのものだから」
男は余裕の笑みを浮かべながら彼女に近づくと、僕が触れたくても触れることのできない彼女の腕を掴み、自分のほうに引き寄せた。
ああ、イラつく。
「……彼女はモノじゃないよ」
「ああ、知ってるよ」
「お前、ムカつく」
「最高の誉め言葉だね」
僕の嫌味とも負け惜しみとも取れるセリフををさらりとかわし、にこり、と微笑む男。
ああ、コロシタイ。
「お前に彼女は似合わないよ」
「へえ、負け惜しみかい?」
「君、こんなやつのどこがすきなの?」
「え……」
男をにらみつけながら、彼女に話を振る。ああ、こんなの本当に負け惜しみだ。こんなことを聞いたって、自分が惨めになるだけなのに。
すると、うつむいて僕の質問の答えを考えていたらしい彼女が顔を上げた。真っ直ぐに僕を見据えるその純粋な瞳が、好きだった。
「わたしは、彼じゃないとダメなんです」
――ああ、知ってたよ、そんなこと。
それはとても穏やかな口調ではあったが、僕への完全な拒絶だった。
でも、僕はその穏やかな口調も、彼女の声も、全部愛してた。
「君がどんなに彼女を愛していても、彼女を手に入れることはできないよ」
彼女にフラれた僕をさらにどん底に突き落とすかのように、男は語る。
「だって、彼女が愛しているのはぼくだからね」
うるさい、黙れ。知ってるんだよ、そんなこと。
それでも、僕は本当に彼女が好きだったんだ。
「お前、ホントにムカつくな。死ねばいいのに」
「ぼくが死んだら彼女が哀しむだろう?」
「は、そしたら僕が奪ってやるよ」
「残念だけど、ぼくは彼女をおいて死んだりしないよ」
知ってるか? 男のほうが平均寿命は短いんだぞ。
そんな負け惜しみにもほどがあるようなことを思ったなんて知る由もなく、男はふ、と不敵な笑みを浮かべた。そして、何のイヤガラセか(絶対にやつの陰謀だ)、二人は手をつないで仲良く去っていった。
「ありがとう」
去り際に聞こえた彼女の小さなささやきだけが、唯一の救いだったのかもしれない。
絶対的な自信なんて、そんなものはどこにもなかった。だって、僕は、彼女があの男じゃなきゃダメだということを知っていたのだから。ずっと見てたんだから、そんなことくらい知っていたさ。
大好きな彼女と、大キライな男。僕が入る余地は、どこにもなかった。