中、王女と『勇者』
――ハドスの街の壊滅。
ハドスはかつて『勇者』と呼ばれた者により、国を恐怖に陥れた魔王を封じられたとされる地である。そのため、国中で魔王が復活したのではないかという噂が広まった。
真っ赤な朝焼けに照らされた王宮。その会議の間に緊急招集された王国の重鎮たちの顔は険しい。明け方に入ったその報がその所以である。彼らの専らの議題は、街一つ分の税源が無くなったことだ。
しかし、この部屋の長テーブルの上座にはまだ座っている者はいない。
「こんな時に……王は何をしている?」
王の寝室は、窓が閉め切られ、朝日も差さず、寒い。その部屋の寝台に痩せ細った老人が腰を下ろしている。
「随分情けない姿になったものだな」
部屋の闇の中から少年が現れた。老人は虚ろな目で彼を見る。
「……お前か」
「五十年ぶりだというのに、冷たいではないか。かつてのお供も来たというのに」
少年がそう言うと、彼の後ろからまばゆい光と共に金髪の女が現れた。
「兄上!?」
「ライナ……」
女が老人に駆け寄る。老人は変わらず虚ろな視線を女に向ける。少年は黒い水晶を老人に向け、それに映し出される情報を眺めた。
「……そやつはこの五十年、政治に関わることは何もやっていない。大臣どもの傀儡のようなものだ」
「そんな……。じゃあこの国の悪政は……」
女はうなだれる。それを見て少年は女の横に立った。
「用済みだ。失せるがよい」
少年が女の頭に手を翳そうとした時、不意に老人が手を伸ばした。少年が老人を見る。
「この頼みを聞いてくれ」
彼の目は正気を取り戻していた――――
「何事だ!」
大臣たちが騒ぎ出す。会議の間の扉が破壊されたのだ。
「待たせた」
国王の声が聞こえた。しかし、国王の様子が明らかにおかしい。怯える大臣たちの前に護衛兵たちが出る。
「何者だ! 本物をどこへやった?」
「国王ならここにいるだろう?」
ニヤリとすると国王から邪悪で強大なオーラが溢れ出す。そのオーラが黒い龍へと変貌する。護衛兵たちはその龍に次々と喰らわれる。
「ひいぃっ」
大臣たちが醜い悲鳴をあげてもう一つの扉へ急ぐ。しかし、その扉を開けた先には光り輝く虎と、五十年前の『勇者』に仕えたという伝説の女魔道士がいた。
「兄上の仇!」
大臣たちは退路を絶たれた。




