上、魔王と奴隷王女
その日、魔王は五十年の眠りから目醒めた――
「今こそ、我が、世界を恐怖で覇するとき」
彼の姿は全身黒ずくめの少年であった。地中深くから地上の神殿を破壊すると、自らの邪悪なオーラから邪龍を生み出し、邪竜と共に魔王は、家を焼き、人を殺し、残虐の限りを尽くした。街に悲痛な叫びが谺する。
「いいぞ、いいぞ。実に……実に心地良い響きだ」
人間たちの悲鳴に胸を躍らせ、高らかに笑う。
と、その時、逃げ惑う一人の薄汚れた服装の若い女が視界に飛び込んだ。
「あやつは……」
魔王は邪龍に女を捕らえさせた。苦しみに歪む女の顔を確認してニヤリとすると、腕に抱えるとオーラの翼を広げ根城へ飛び立った。
残された邪龍は炎を吐いて街全体を焼き払うと、闇の中に消えていった。街は永い夜に向かって炎々たる光を放ち続けていた。
「……我を覚えているか?」
広い洞窟に魔王の声が響く。話しかけた相手は金髪金眼の女。彼女は鬼の形相で睨みつけた。
「忘れるわけないでしょ。私の人生を壊したあんたのことを!」
激しい剣幕を見せ、女は魔王へ飛びかかった。魔王は横へ飛んでかわすと、懐から短剣を数本取り出し、次々と女に投げる。瞬間、女の身に光の装甲が現れ、短剣をはじいた。
「やはり似合うぞ、王女様よ」
魔王がほくそ笑む。女は唇を噛む。
「あんたの所為で、私は王宮から追放され、奴隷並みの生活しか送れなくなった……」
女は後ろに飛ぶと、光の弓を魔王に向け構えた。
「あんたに与えられた力で、葬ってやるわ!」
放たれた矢は、光を纏い、巨大な光の矢となった。魔王は自らのオーラで体を包み込むが、その威力に洞窟の奥まで吹き飛ばされた。
洞窟の奥へと、女は歩を進める。
「ねえ、提案があるの。聞いてくれる?」
洞窟の闇の中から魔王が現れる。魔王は無傷である。
「今の国王、あんたを封じた勇者なの」
「たった五十年で破れる程度の封印しかできぬ奴が国王だと? 笑わせてくれるわ」
「王宮を襲撃する手伝いをして欲しいの」
魔王の顔色が変わる。
「お前を苦しめ続けているのは、我の不老不死の呪いであろう? 何故我に持ちかける?」
「五十年も経てば、この呪いにも慣れてきたわ。寧ろ感謝したいくらい」
「そうか、気に入ってもらえたか」
魔王が大口を開けて笑う。
「あの男があんたを封印し、王になってから数年……。私のような貧しい生活をする民が増え、盗賊団が街を襲うようになったのは」
女の言葉には怒気が帯びていた。魔王はそんな彼女を嘲るように言った。
「この魔王が人間のための政治をすると思うか?」
女は冷たく笑った。
「邪魔になれば、封印すればいいことよ。私が利用したいのは、あんたの力だけ」
「この魔王を駒扱いとは……面白い」
魔王は口元に手を当てながら、意味深に含み笑いした。
「ならば、我にとってお前が不要な存在になったとき、我の呪いでお前の命を奪うことになるが、それでも良いか?」
「いいわ。好きにしてちょうだい」
「……契約成立だ」
二人は王宮へ向かうため、冷え込んだ夜の空へと飛び立った。




