一人の女生徒の恋愛話
注:この話はフィクションです。
後、舞台は高校です。
「好きです、貴方の事が」
もう何度繰り返したかわからない、同時に何度返事を返されなかったか分からない、私の告白。
「お願い、今日は返事を返して。じゃないと諦めきれない」
すっぱりと断られるのならまだ諦めきれた。別の男子と付き合って何度も諦めようとした。だけど。
「……」
無理だった。付き合っている時は確かに楽しいけれど、そんな物はあくまでも一瞬しか効かない薬のようなもので、別れる度に虚しさが募っていった。どんなに虚しさを振り払おうとしたって心の底にいるのは、いつも貴方。そんなんじゃ他人と付き合ったって意味なんかないのは当然だろう。 だから、今日この日この時間、私達が卒業した直後なら、絶対に返事が貰えると確信して、私は貴方に告白した。
「俺は――」
口が開く。聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちの相反する気持ちが胸の中に募る。でも、この返事を聞かなきゃならない。聞いて初めて私は――。
☆
「はあ……」
私こと細川里菜は、もう少し明るい人間である筈だった。
教室では完璧に振る舞い、部活では後輩達からも慕われる、学内での有名人。そんな筈だ。断じて、いや断じてこんな辛気臭い顔をしているわけがない。
「お、小森君だ。せっかくだから少し愚痴ってみよ」
そんな時、ふと廊下を歩いていたら部活仲間である小森がカフェオレを買っていた。丁度いい、絡んで愚痴を聞いて貰うとしよう。こう言っちゃ悪いけど、なんかあいつ暇そうな顔してるし。
「K〜森さん〜」
「誰がK森だ……って、細川さん。どうした、呼びつけて?」
「う〜んとね、ごめん、今時間ある?」
「時間はあるけど、何かあったのか?」
「出来ればでいいけど、愚痴を聞いて貰いたいなって。勿論、他言無用だけど」
「随分一方的だな……ま、時間はあるし愚痴くらいなら付き合おう」
ふっふっふ、計算通り。小森には悪いけど、犬に噛まれたと思って諦めて貰おう。
「後、一人だけ飲み物持ってるのも何か悪いし、細川さん、何か飲み物奢ってやるよ」
「え、いいの?」
「まあね」
……ラッキー。まさか愚痴だけじゃなくて飲み物まで貰えるなんて。いい奴だとは知ってたけど、えらい気が効くじゃないか。
「じゃ、紅茶お願い」
「ほいほい」
小森が自販機に百円硬貨を投入したのを確認し、紅茶のボタンを押す。うう、冷たくて気持ちいい。
「で、話ってなんだ?」
「えっと、結構長話になるけど、覚悟はいい?」
「元から出来てるよ。それに誰にも言わない。約束は守るよ」
「ありがと、えっとね」
そこからの話を全部書きたい所ではあるがそうしてしまうと小説が一本書けてしまう位のボリュームになるので、要約すると。
私には七年前から好きで、現在も同じ高校に通っているY君とという人がいる。そいつに私は何回も何回も告白したのだが、残念ながら返事は一度も貰えていない。現在は完全に親友以上恋人未満の関係だ。
そんな状態なので私は、そんな彼と付き合う事を諦め、何人もの男子と付き合う事で忘れようとしたのだ。スラ●ダンクでいう某PGと同じようなこと、と言ったら分かる人には分かるかもしれない。まあ、そうやって私には一時の平穏が訪れていた。そう、一時の。
結局、どこまでいっても私は、彼の事が好きだったのだ。足掻けど足掻けど手に入いる物は、後悔と虚無感だけ。それを認めず同じ事を繰り返して、現在はもう八人目になる。
勿論、今回の男子、仮にIとでもおくとそのI好きなわけでは全くない。あくまでも代用品として用いてるに過ぎない。でも、そんな今の私をもし彼が知ってしまったら。
「ねえ……どうしたらいいと思う?」
自業自得というのは分かっている。馬鹿な事をしているということも承知している。でも、彼に嫌われたくない。それは、私の唯一無二の気持ちなのだ。
でも、ここで問題が発生した。
あくまでも代用品でしかない筈のIが、私がIの事を好きだと勘違いしてしまったのだ。勿論私はIの事など好きでもなんでもない。が、Yも私に振り向くなど有り得そうもない状況だ。そんな状態だから私に許された選択肢は二つ。
一つは、Iを綺麗さっぱり振って、無理だとわかっていてもYの事を追うか。
もう一つは、Iと今の生ぬるい関係を続けていくか。
「それにしても、本当に波乱万丈な高校生活だな」
「うっさい――で、どうなの?」
「月並みだけど、自分の気持ちの整理がつくまで待ってみる、というのはどうかな」
「だからそれが出来ないんだっての」
「なら、愚痴は聞いてやるから、それで心の整理をつけたらいいんじゃないか? 幸い、と言うべきか時間はあるし」
「いいの?」
「別にいいさ。聞いてて面白いしな」
こういう言葉が自然に出て来る辺り、やっぱりこいつはいい奴なんだと思う。まあ最も、それ以上に残念すぎるから、彼女の一人も出来ないんだけど。
「じゃ遠慮無く愚痴るよ!」
「ああ、好きにしろ。聞くだけは聞いてやる」
この後、小森が『もう勘弁して下さい』と値を上げるまで付き合わせた事は想像に難くないと思う。でも、そこまでしても明確な答えは出なかった。
いや、違う。答えは、元から私の心の奥底にあったのだ。それに、私が気づかないフリをしていただけ。
諦めという安易な道を選択していた私には、絶対に見えないモノだったのかもしれない。
☆
一度は確かに諦めた。
友達以上にはなれないと思って、何度も泣いた。
でも、やっぱり、私は。
「いや、無理だって……っ!」
貴方の事が、諦められない――。
あれから今日の卒業式に至るまでに、答えは一応出せたと思う。それと同時に、色々な事に決着をつけてきた。
『自分のしたいことをしろ』。私の愚痴を聞き疲れたらしい小森が最後に残した言葉だけれど、その重さ、難しさが今になってやっと分かった気がする。
今日私は、Yから答えを貰う。それで例え今までの関係が壊れたとしても、その時はその時だ。最悪の事態になった時の覚悟もした。Iとも理由を告げて別れた。後はもう、するべき事をするだけだ。
「よ、挨拶回りは済んだか?」
「有紀……。うん、大丈夫」
そして私は、いつものように彼、志村有紀に返事を返した。
「よし。そろそろ人も減ってきたし、俺らも帰らないか?」
「帰るのはいいんだけど……少し、飲み物でも買ってかない?」
「分かった。場所は自販機でいいな?」
「うん。と言うかそこがいい」
しょうがないな、と言うかのように肩をすくめ、私と一緒に歩き出し。
そして、舞台は冒頭へと遡る。
「……本気、なのか?」
「私はいつだって本気だよ」
「他の奴と付き合ってたじゃないか」
「あれは有紀の代用品としてただけ。私はいつも有紀一筋だよ。それに、ちゃんと返事をくれないそっちも悪いんだから」
「……う」
言い返せず戸惑う有紀に、今が好機だとばかりに自分の思いのたけ全部をぶつける。自分がどれだけ好きだったか。返事をくれないせいで何度泣いたか。おかげでというか変な勘違いをされたとか。八割の恋心とニ割の皮肉、それら全てを全身全霊で伝えていく。
「……ごめん、里菜」
「誠意で返して」
「……はい」
私の言葉が耳に痛かったのか、有紀はしゅんとした声でこちらを向く。ふふん、ざまあみなさい。いつも変な返事しかしないそっちが悪いんだから。
「さ、早く答えて。私の告白を受けるのか、受けずに私を振るのか。聞くまで私は、貴方を帰さない」
「そんな急に言われても、覚悟が出来てないんだけど……まあ、いいか」
言葉とは裏腹に、真剣な目で私を見つめる有紀。その姿は、私の気持ちを再確認させるには十分すぎるもので。
「俺は――」
彼のその答えを受け入れるには、十二分以上の効果を発揮してくれた。
☆
この告白がどうなったかは、あえてこの場では書かない。成功したのかはたまたあえなく撃沈したのかは、読者の皆様の手に委ねる。
その結果がどうあれ、私は自らの過去と一つの区切りをつけることが出来た。その結果が後に重要な役割を果たすのかもしれないけど、そんな“もし”は考えても仕方がない。
恋というのは素晴らしい物であると同時に、様々な負の側面をも併せ持つ。そんな経験を通してきたからこそ、私は様々な事を学べたのだと思う。例えそれが遠くない未来プラスに働こうとマイナスになろうと。私は、後悔だけはしたくないと思う。
そう過去を懐かしみながら、私は今日も大学に通う為に朝の電車に乗った。