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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
止まる世界
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76.北門

 北門の周辺には街の東門周辺と違って、戦える《プレイヤー》達も多く残っていた。異変が目立ち始めた時間帯が早朝ということもあって、多くの《プレイヤー》達がその日の狩りに出掛けるまえに異変に出くわしたためだった。これから狩場に出ようという者達と彼等を当て込んだ露店の賑わいはいつもの朝と何も変わりなく、ただ、門の中から何となく不安げな様子で外を見つめる人だかりだけが違っていた。


 暫くは街の中で様子を見ていた彼等も、初めは恐る恐る、歪なウサギ達を狩ってみようとする者達が出始める。試みに近場の数匹を狩ってみて彼等は狂喜した。ウサギ達は日頃見かけることの無いような、貴重な生産材料系のアイテムを大量にドロップするのだ。門の中から様子を見ていた者達も、我先にと飛び出していく。すぐに獲物の奪い合いが始まった。マジューレの目論み通りに、ドロップアイテムに釣られた《プレイヤー》達によって、出来損ないのライル達は急速に駆逐されていった。


 ウサギ達はステータスも姿形も様々で、アクティブモンスターに変容して襲いかかって来る物や、巨大化した身体のせいで自力では移動もままならず座り込んだまま動かない物もいた。あるものは《プレイヤー》達が見たことのない魔法を使い、別の物は空を飛んだ。《識別》を持っている《プレイヤー》が、それが《竜魔法》という聞いたこともない《スキル》だと仲間達に知らせた。


 弱い物から順に駆逐され、ウサギ達は次第に数を減らしていく。この奇妙なモンスター達は同士討ちもする。ずば抜けて能力の高い物、知能の高い物が他のウサギ達と戦う《プレイヤー》を横から攻撃して、仲間のウサギごと葬り去る。空を飛ぶ二十数匹は特に能力が高かった。知能の高い物達は、じっと自分の敵達が減るのを待っていたのだ。


 次第に押されぎみになって《プレイヤー》達が街の中に逃げ込み始めると、飛ぶ物の何匹かが侵入不可能な筈の街の上空に入り込み、魔法の光弾を放つ。門内に逃げ込もうとした《プレイヤー》達も、見物にまわっていた者達も、門と周囲の建物ごと吹き飛んで蒸発して無くなった。ドラゴン達の蹂躙のあとには、クレーターのような地面の窪みしか残らない。直撃した場所から近い周辺の建物も爆風と飛散する瓦礫を受けて倒壊し、崩れる建物の中からは悲鳴が聞こえた。生き残った者達が、宙を舞うドラゴンを魔法で攻撃を試みて自分達の攻撃がまったく効果を発揮しないことを知り狼狽えた。


 生き残った《プレイヤー》達が、蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。街の中心へ逃れようとした者達は待ち伏せにあい、今は逆に街の安全地帯に護られた不死身のモンスター達に追われて、逃げ惑う。街の中が逆に危険だといち早く気が付いて門の外に逃げ出した小数も、空中から襲い掛かるドラゴン達に有効な反撃の手立てもないまま苦戦を強いられる。彼等の唯一の救いは、ドラゴン達の中で積極的に街の外の《プレイヤー》達を追うものが少ないことだ。知恵のあるドラゴン達は、ダメージを負うリスクを伴う街の外での戦闘よりも一方的に蹂躙することが出来る安全地帯を選んだ。飛ぶ物に遅れて走れる物達が街に押し寄せて、街の周囲を囲む外壁を破壊して飛び越えて浸入し始める。街の至る所で火の手が上がり、悲鳴と崩壊する音が聞こえるようになった。ドラゴン達の中で力の弱い物達は、街の周囲を遠巻きに囲んで、お互いに距離を取る。それだけの知能も力もない物は、既に死んでいた。ドラゴン達は《プレイヤー》を相手にしている隙を、他のドラゴンに突かれることも警戒していた。


 ドラゴン達にとって、自分以外の全ては敵だった。なぜなら《プレイヤー》達は、元々この世界に存在するドラゴンを護る役目を負わされている存在で、そして世界に存在出来るドラゴンは一体だけだと、彼等は知っているからだ。動く物の全てを滅ぼさねば自分が存在出来ない。ドラゴン達の狂った頭の中にあるのは、それだけだった。









 騒ぎが起こり始めたとき、アレスは一階の私室にいた。広場の方が騒がしくなっていることに気が付いていたが、それどころではなかった。シェリルが突然意識を失って倒れたのだ。


「シェリル! どうした?」


 助け起こそうとしたときに突然窓の外で閃光が迸り、続いて広場に面した壁が吹き飛んだ。部屋の天井がまるごと、崩れながら落ちてくる。アレスは咄嗟にインベントリから取り出した盾を頭上にかざして、シェリルを抱き抱えた。

 押し潰されそうになるのを何とか耐える。瓦礫のぶつかる音、悲鳴、爆発音、別の悲鳴、立ち込める砂埃と瓦礫の山の隙間から、広場と空が見えた。見たことのないモンスターが街に侵入している。

 シェリルを抱いたまま、瓦礫を押し退けてドアに向かった。崩れかかった壁の重みを受けて動かないドアを蹴破ると、一階の廊下は既に建物の中に逃げこんだ《プレイヤー》達で一杯だった。怪我人や、シェリルと同じように気を失っている《NPC》達を背負い者。小柄な種族の者達を何人も抱えた大型の獣人。カウンターのある玄関の方から雪崩れ込む人の波に押され、出口から離される。こっちには二階への階段しかない。何とか流れに逆らって前に進もうとすると、近くにいた顔見知りの職員に悲鳴のように叫ばれて引き止められた。


「そっちは駄目よ! 入ってきてる!」


 その声の主の青ざめてひきつった顔を見て、アレスは気が付いた。廊下にひしめき、押し合いながら逃げようとする《プレイヤー》達は皆同じ顔をしている。……みんなの表情に気が付かないほど、ここは暗い。何故?この廊下はこんなに暗くなかったはず……

 アレスは窓の変わりの照明があるはずの、天井近くの前方に視線を向けた。何かが動いていた。……さっきから建物が軋み続けるのはコイツのせいか。大型種族の為に高く作られた天井いっぱいの高さ、這いつくばってもその大きさだ。その生き物が、隙間なく人で溢れた廊下を進んでこちらに近付いて来ている。廊下の幅いっぱいより大きな身体を、無理に建物に入れてここまで来たらしい。一本しかない腕で、匍匐前進のように逃げ場を失った《プレイヤー》達を磨り潰し、床の模様に変えながら。

 人の流れに押されて流されて、廊下の端にある階段が近づくと、辺りは少し明るくなった。一度階段までたどり着いた人の波の中から、新しい悲鳴が聞こえ始める。アレスが階段が見える位置まで移動して見上げると、既に二階は無くなっていて空が見える。そしてゆっくりと、自分の重みで階段を破壊しながら、もう一匹が下りて来るのが見えた。

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