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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
グリーゼの街
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4.ドワーフ

 1.何故か遅れて来る『新人さん』達。


 イオン(私)もテスとマジューレも、ベータテストが始まった日に《ルニタニアオンライン》を始めている。何故かゲーム内では一年の時間差がある。


 2.不気味な《NPC》


 不気味の谷の一番深い谷底からニッコリ微笑んでくる高性能AI達。うっかり『クエスト』の『フラグ』を成立させてしまうと謎の強制力で行動が制限され、不気味さ倍増。『フラグ』は回避不可能なものもある?


 3.PK


 『2』を上手く利用している非生産的な《プレイヤー》達。


 イオンに理解できるのは『3』だけだった。『何故』とか『謎』という言葉を使わずに、『1』と『2』は頭の中でまとめることが出来そうにない。マジューレの云っていたベータテストの日付はイオンにとって今日のことで、マジューレとテスには一年前らしい。


 『2』についてはもっとわからない。他では見たことが無い自然な所作と笑顔の高性能AI達。 『クエスト』が始まるともう彼らの笑顔から逃げることは出来ない。『仮装現実』のこの身体に、脳ミソの中にでも強制プログラムがあるのか。そんなことがあるなんて、出来るなんて思えない。『空き家クエスト』の『フラグ』が『住む所のない初心者』だとしたら、マジューレとテスがいなければイオンは『3』によって死んでいた。


 それにもうひとつ……『4』がある。


・《プレイヤー》達には住む所が必要。

・テスもマジューレも(ゲーム内の時間で)一年前からこのゲームにいる。

・ベータテストがあったのはたぶん(・・・)一回だけ。

・『パッチがあたって』クエストが出来たらしい(・・・)


 つまりそう言うことだ。この二人はゲームの外、攻略サイトや掲示板でパッチやテストの情報を見る機会がなく、確証が持てないでいる。そして《プレイヤー》達には家が必要、なければ野宿。つまり『4』は――


「……ログアウト出来ないのね。」


 テスもマジューレも、どう切り出して、どう説明のすればいいのかわからない事を、二人が後回しにして云いあぐねている事を、イオンが先に言葉にした。


 無言の肯定。二人が答えないでいる間、イオンは(自分にとっては)明日のバイトと飼っている金魚の事を思い出した。


「話が早くて助かるが……ついでに云っとくと『何故か』も『どうやって』も『誰が』『何のために』もわからん。答えられん。」


「ゲームクリアのクエストで終わるとか、死んだらログアウトとか噂や希望的な話はある。みんな、その中で信じたいことを信じてるってとこかな。」


「どうしたらいいの? 金魚どうしよう?」


 弱気が言葉になった。口に出すと改めて自分の置かれた状況、前途への不安に押し潰されそうだ。イオンは途方にくれテスを見そうになる。すがるような顔をしたくなくて、下を向いたままでいた。


「とりあえずここに住め。午前中は店番、午後は自由。家賃はいらんが給料もない。細工《スキル》で作ったものは店で勝手に売ってくれ。金魚はたぶん、大丈夫だ。」


「ありがとう……マジューレさん。」


「呼び捨てでいい。なんかくすぐったい。」


「みんな『親方』って呼んでるよ。あ、マジューレちゃんでもいいかな。」


 テスが笑って続けた。


「この人女性だから。」


 ……!ドワーフの性別ってわからない。髭凄いし――イオンは改めてドワーフを見た。顔が赤い。


「ありがとう、よろしくねテスさん、マジューレちゃん。」


「……親方で頼む。」


「オレも呼び捨てでいいよ。やっぱりくすぐったい。」


「テス、とりあえず街を案内しながら《ギルド》まで一緒に行け。俺は客が来るから一緒に行けねぇ。」


「武器は作っといてやるから買わなくていいぜ。筋力と《スキル》を教えてくれ。」


 イオンがステータスを見て筋力と、弓をお願いと告げる。それからありがとう、と。


「6って低くね? ショートボウでもペナルティがあるな。まぁなんか探しとく。」


 言いながら店の奥の工房に向かい、手で尻を掻きながら歩き出す。おもいっきりガニ股の後ろ姿。テスが指差して笑いながらイオンを見る。イオンも笑った。


 テスが店の奥に声をかけ、二人は出掛けて行った。一度工房に入ったドワーフは少し待ってから店の外に出た。店の前の大通りを北に歩いていく二人の背中を見送りながらドワーフは思考を巡らせる。二人の背中に感じる気安い距離感は自分の知っていた物と似ているか。テスはどうするのか。自分はどうしたらいいのか。彼女は答を出せないまま、髭を弄りながら店に戻っていった。もしもイオンがその疑問を聞かされたとしたら、『5』と番号を付けられて頭の中の『まとめ』に加えていたかもしれないが、今はまだドワーフとテスの胸のうちにしかなかった。

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