31.魔弩
急に広がった敵の間合いに、チャカは少し手間取るようになった。もう一度、見切り直す必要がある。骨は上段に構えて降り下ろす様に見せて突きに転じさせ、横に薙いだ軌道が縦にも僅かに加速して変化した。斬撃の軌道を正確に予想出来ず、かわそうとするチャカの動きは大きなものになっていく。体力の消耗が大きい。横に薙ぐ骨の斬撃を、もう一度後ろに跳んでかわす。このままではチャカは自分の間合いに入れない。骨の横薙ぎがもう一度襲いかかってくる。チャカは剣で受け前に出ようとした。骨の左腕とその手が握る右腕の肘が曲がり、斬撃の軌道を変化させる。チャカの反応が一瞬遅れて間に合わなかった。骨の剣が再度右腕を掠める。かまわず前に跳んだ。背の死角に刀身を隠すようにして前に出る。
骨はチャカが背後で剣を持ちかえて、再び右手の斬撃が来るものと考えた。――問題ない。どちらの手に剣が有っても自分の剣が先に届く、骨は迷わなかった。骨の斬撃は、二本の腕のぶん間合いも広い。二つの肘関節が斬撃の軌道を変化させ、太刀筋の予想を困難にしていたが、先程よりやや大振りで切り返しが遅れる。しなやかな獣人の脚がもう一度地を蹴って加速し、一気に間合いを詰めたチャカが身体ごと回転した。獣人の柔軟な身体が、骨の身体と彼の剣の間で一回転して剣の軌道を変える。
右と見せかけて左、そしてその剣の軌道は右でも左でもなかった。左手に持つ剣が骨の右手を掴む左腕に斬りつけた。同時に背中に回り込んだ骨の剣が彼女を斬りつける。激しい金属音がして骨の斬撃は弾かれ、剣を持つ右腕が破壊された左腕を離れて飛び出した。その剣をチャカが下から打ち上げ、右腕も破壊する。剣は宙を舞う。
チャカの背中を守ったのは、いつの間にかインベントリから出して右手に持つ、もう一本の剣だった。
「奥の手は最後まで隠しておくモノよ。」
蒼い燐光を纏い宙を飛ぶ剣を追って、二人は跳んだ。骨の腕はバラバラの破片も集まって再生しつつあるが、再生よりもチャカが速い。
背を反らして右手の剣を振り上げ、左の剣と共に宙にある骨の剣を挟み込むように斬り付ける。再度激しい金属音がして蒼い剣の刀身が割れ、チャカの左手に持つ剣も砕けた。二本の剣の破片が混じりあって散る。チャカは着地して息を吐いた。骨も着地すると膝をついた。左腕は再生していたが、右腕は失われたまま変化しなかった。彼はよろめきながら立ち上がって自分の剣に向かって歩みより、拾い上げる。柄をチャカに向けて差し出した。
「……見事。」
チャカが剣を受け取ると、短くそう告げて彼は崩れ始める。静かにさらさらと、灰のような白い粉末がこぼれ飛び、やがて大きく崩れてチャカの足元で灰の山になった。山の表面の灰は、風にのって少し飛んだ。
「この剣、修理して使えるかニャ? 私も骨になったり?」
イオンがチャカに駆け寄るとチャカが微笑んだ。ノーザが『ヒール』をかけて右手の傷を癒す。テスが近付いて云った。
「おつかれさん。」
「ふーっ。キツかったニャ、多分このダンジョンのボスじゃニャい?」
「どうかな? ボスモンスターならパーティーで戦うだろ普通。」
「あれ、宝箱?」
部屋の中央に、いつの間にか黒い金属製の箱が出現していた。『クエスト』の報酬なのか、テスが調べてみたが罠も無さそうだった。箱の中には幾つかのアイテムが入っていた。テスが《識別》で調べ始め、説明していった。
「お、これは……イオン、やったな。」
そのうちの一つをテスはイオンに渡す。それは小さめの黒い金属製クロスボウだった。中央には矢をセットする溝がなく、円錐の先端を切り落としたようなクリスタルが嵌め込まれて紅く輝いていた。弦の中央にもクリスタルが固定されている。弓の力は強くない。イオンの手でも簡単に弦を引っ張って、ロックにかけることが出来た。イオンが引き金を引くとクリスタル同士がぶつかって固い音がし、先のクリスタルから何かが飛び出した。それは紅いエフェクトで、直進して床の石材に当たると飛散して無くなった。
「それが『魔弩』だよ、イオン。」
骨が云っていた通りホールから上のフロアに向かうらしき階段があったが、ダンジョンに入っておよそ半日が過ぎていた為、パーティーはこのホールで休息を取ることにした。イオンは新しい武器を意味もなく取り出して眺めてニヤニヤしたり、壁に的を描いて射ってみたりして遊んでいる。テスも何発か射ってみたが、敏捷よりも知性のステータスが高い方がダメージが出るらしく、イオンが射ったときに比べてエフェクトが小さくなった。
「たぶん普通のクロスボウくらいの強さかな?」
《鑑定》で見た攻撃力もそのくらいだった。使用者のMPを消費し、矢は必要ない。イオン向きの武器だ。いままで使ってたのが弓系で最弱のパチンコだからなぁ。でもニヤニヤし過ぎ。テスが見ていると、今度は床に石を積み重ねて射ち出した。……しかも外れた。テスは苦笑しながら、至近距離で外し、赤くなるイオンを見ていた。他の二人も半ば呆れて笑いながらイオンを見ていた。




