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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
冒険
30/86

29.剣士

 頭の無い骸骨の案内で、四人は横路の通路に入る。コツコツと骨の踵が石の床を叩く足音がわずかに反響して聞こえる。骸骨によると、下りてきた階段の隠し扉は一方通行で、このフロアの出口は回廊の先のホールを抜けた先にしか無いとの事だった。


 話をしてみても、骸骨から感じるのは《NPC》達に共通する違和感のみで、それも非現実的な見た目のせいかとても弱い。

 イオンは『違和感』の正体は『不気味の谷』の様なもので、相手が自分達に似ていて、そして何処かが決定的に違う為に感じるのではないかと考えていた。この骸骨は外見の違いが大きすぎて、ほとんど違和感を感じさせない。それに『クエスト』独特の不自由な感覚もない。イオンは『フラグ』は回避出来たのかもしれないと判断して、アレス達の事を訊いて見ることにした。骸骨は歩きながら話し始める。


「君達の探している生者達は、私の頭を蹴飛ばして行った連中ではないかと思う。二日か三日前だと思うが……ここは時の流れがわかりにくくてね。」


「骸骨さんはここで何を?」


「ここに埋葬されてるのさ。私のことは『骨』と呼んでくれたまえ。趣味は散歩。嫌いなモノはネズミ。」


 テスが立てた指の上で重心のバランスをとって、頭蓋骨をくるくると回転させた。前を歩く胴体がよろめく。『ネズミ退治クエスト』でも始まるんじゃないかと考えて、会話を中断させたらしい。


「君は人質の扱いが乱暴だね! 私の頭はお嬢さんが持っていてくれんかね?」


 テスから頭蓋骨を投げ渡されて、イオンは両手でキャッチして抱き抱えた。


「そうそう、ちょっと小さいが、なかなか柔らかくていいおっぱウボァ!」


 イオンは思いっきり腕を振って、頭蓋骨を石の床に叩き付けた。意外に大きく跳ね返って転がったそれを、駆け寄ったテスが踏みつけて捕らえた。そのまま後ろも見ずにバックパス。ノーザが、遺体のある壁の窪みにシュートを決めた。頭蓋骨は中で何度か跳ね返ってから回廊の床に転がり出た。チャカが足元まで転がってきた頭蓋骨を拾うと、自分の顔の高さまで持ちあげて睨み付ける。


「いいからさっさと案内しな。」


 キリキリと上骸骨を片手の握力だけで握り潰しそうなほどに力を込め、チャカが進むように促す。豹人は気が立っているようだ。イオンはいつもと違うチャカの雰囲気に驚いた。――あと『ニャ』って忘れてる。


 一行はもう一度高い天井の回廊に出る。ここは霊廟の長い回廊の終わりで、イオン達は横路を通ってショートカットするかたちで回廊の末端にたどり着いた。


「さあここだ。」


 回廊の終わりは、巨大な扉のあるホールになっていた。扉はドラゴンと乙女の意匠で飾られていて、その乙女の横顔にイオンは見覚えがあるような気がした。骸骨が扉の前に立った。手を触れると扉が左右に開き始める。静かに石の床の上を扉が滑り、微かに石と石とが擦れる音がする中、骸骨の胴体が四人の方を振り向いて、そこに無い頭を下げて謝罪の意を表した。


「騙すつもりでは無かったが……この奥が出口だと云うのも本当だ。だがその前にやって貰いたい事がある。それに実は、この身体は借り物でね。」


 チャカの手の中で頭蓋骨がそう云うと、扉の前に立つ胴体が崩れて骨の山に戻る。扉の奥の空間は広い円形のホールになっていて、天井の中央に魔法の仕掛けか、うっすらとホールを照らす灯りがあった。その灯りの下、ホールの中央に巨大な剣が突き立てられ、剣の傍らにもう一つの骨の山があった。


「ここはある剣士の墓所でね。その剣士は生前、『己が剣のみを友とし、我が命つきたるはこの剣の折れたるとき。』と誓いを立てた故か、未だにここで眠る事を許されんのだ。」


 チャカの手の中で、骸骨の虚ろな眼窩には眼差しも宿らず、それでも彼は確かにチャカを見た。


「剣士殿。」


「あの剣を折ってはくれまいか。」


 イオンは悟った。自分が『クエスト』の不自由な感覚を感じなかったのは『フラグ』を踏んでしまったのがチャカだったから。恐らくこの『クエスト』は《スキル》の値が発生条件になっている。《剣術》がある程度高くなければ、あの骨は近づいても立ち上がって話し掛けては来なかったのかも知れない。逆に《剣術》が高い《プレイヤー》は回避が不可能な『クエスト』だ。始まってしまった以上、危険なものでないように祈るしか無い。


「回復もバッフもいらないわ、そこで見てて。」


 チャカがホールの中に進む。中央の骨の山が立ち上がると、それはやはり頭の無い骸骨だった。チャカが頭部を投げ渡すと、それは首の上のあるべき場所に自然に飛んで収まった。骨は床に突き立てられた剣を引き抜いて構えた。チャカも剣を抜いた。


「すでに名乗るべき名も肉と共に朽ち果てた。許されよ。」


「剣士チャカ、――参る。」

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