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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
グリーゼの街
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2.テスと親方

 目の前に突然出現した黒髪のエルフを見て、テスは思った。なんで服の描画が最後なんだろう?そう思った瞬間、少女の細い首が反りかえり、小柄な身体が膝を折って傾いた。


 我に返り、崩れるように倒れかけた黒髪の少女に駆け寄る。小柄な身体を受け止め、目の前でゆっくりと閉じられる金色の瞳を見た。一瞬だけ見えた血色を感じさせない白い肌、頬にかかる黒い髪、エルフ族らしいがよくわからない。眼が合ったとき、小さく唇が動いて『テス』と云った気がする。確めたい。もう一度眼が見たい。腰に回した腕で少女を支え、華奢な肩を揺すりながらテスは考えた。

 ――『新人さん』だ。まさか本当に現れるなんて――

 この少女が自分の待っていた人なのか、まだわからない――声が聞きたい。


 抱き止めて支えた少女の身体を細身の腕で意外に楽々と抱き抱え、テスは自分の来た道を引き返した。急ぎ足で歩きながら眠る少女のステータスを《識別》の《スキル》で確認し、状態異常(バッドステータス)がないことを確める。街の中心の広場から三方に伸びる大通りのうち、北の大通りを歩いてすぐの場所に彼の目的地があった。


「親方っ! 来てくれ!」


 店に入り奥の作業場に声をかけるのと、テスに気付いたドワーフが出てくるのはほぼ同時だった。ドワーフが抱えられた少女を見て、何か云おうとするのを遮るように先に答える。


「気を失ってる。いきなり倒れたんだ。」


「二階に運べ。寝かしとくんだ。」


 テスは二階に上がって階段から近い空部屋のベッドに少女の身体を横たえると、すぐに一階に戻る。突然気を失った少女が心配だが、時間がない。階段の戸口の前でドワーフが腕を組んで待っていた。


「エルフか? 髪が黒いし小せぇが。」


「『グレイエルフ』だって、初めて見たけど。」


「《識別》でどこまでわかる?」


「ステータスは全部見えたよ。ログインした瞬間も見た。『新人さん』で間違いない。」


「気を失ってるのはなんでだ? 何か弱点のある種族か?」


「わからないな。あと、まだ何も話してないぜ。」


 一番訊きたかった事を先に答えられ、ドワーフが腕を組み直して言葉を飲み込むのをテスは見ていた。ドワーフは一度店の外をうかがうように見ると、もう一度口を開いた。


「とりあえず『ブラウン』だ。アイツが来る前に説明をしときたかったが……間に合わないときは俺達で面倒見るってことで話をあわせてくれ。」


「あの……」


 テスが頷いて口を開きかけたとき、背後からの声で階段の戸口の少女に気が付いた。ドワーフが小さく発せられた声に驚いて、小さく呻いたのがわかる。テスは、驚きを顔に出さないでいることになんとか成功して振り向いた。

 広場で突然現れたとき、顔を見たときから予感のようなものがあった。それが今声を聞いて確信に変わった。振り向くと戸口に手を添えて立つ少女は、ドワーフから自分にゆっくりと視線移し、口を開こうとしていた。それを遮るようにドワーフが少女に向かって早口で声をかける。


「もう大丈夫か? 大丈夫なら聴いてくれ。時間がないから挨拶と自己紹介は後回しだ。」


「詳しい説明もする時間がないけど……その前に座った方がいいぜ。」


 テスは壁際の椅子を前に出して少女を促した。さりげなく顔を見る。金色の瞳が自分を通り過ぎて周りを見回す。――やはり何も覚えていないのか。テスは落胆が顔に出ないように無理に気を引き締めた。話したいことが沢山あるが、今は時間がない。取り合えず今から起きることへの警告だけだ。それも間に合うかわからない。


「ありがとう。ヘッドギアが調子悪いみたい……」


「話は後だ。いいか? もうすぐお前さんに会いに『ブラウン』ってオッサンが来るはずだ。コイツは《NPC》だ。何を云われても絶対に断れ。絶対にだ。さもなきゃ最悪『死ぬ』ぜ。」


 彼女が話を遮ったドワーフを見た。喋りながらまた店の入口を振り返り、真剣な顔で『死ぬ』と云ったドワーフを、半笑いの困惑の顔で見つめ返している。

 テスがどう説明していいのか考えながら口を開こうとしたとき《探知》の《スキル》が恐れていた人物の接近を知らせた。


「来たぞ、《探知》の範囲にもう入ってる。」


 テスは店の外に飛び出した。遠く道の向こうに件の《NPC》の姿を見つけると、店の戸口に手をかけて声を圧し殺すようにイオンに話し掛ける。


「イオンさん? 訳がわからないだろうけど俺たちに話をあわせてくれ。」


 困惑の表情のまま、振り向いた彼女が自分を見て口を開きかけた。その視線がそのまま自分からそれて背後に向けられるのに気が付く。……まさか、早すぎる。テスは驚いて後ろを振り向いた。


「やあ、テス。お邪魔するよ、マジューレさん。」


 店の戸口の外に、恐れていた大柄な人物が立っていた。禿げ上がった頭と温厚そうな表情、恰幅のいい中年男性の頭の上には『ブラウン』と名前があった。

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