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ルニタニアオンライン イオン編  作者: るるゐゑ
グリーゼの街
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9.ステラ

 テスには自分がどんな顔をして、どんな態度で連れ立って歩く男に接したら良いのか全くわからなかった。テスは今、イオンを挟んでノーザ・ゴーンと並んで歩いている。掲示板の前で出くわしたこのPKは、イオンの『現実』の知り合いらしく、『先生』『透くん』と呼びあう関係らしい。「おごるから昼飯付き合ってよ。」というノーザの言葉に、イオンが即答でOKしてしまったのだ。隣を歩く呑気な『先生』は、テスの隣で自分の頭の上に表示される『!』や『?』に触れようと手を伸ばしてノーザを笑わせていた。《表情エモ》の出しかたを教わって遊んでいるところだった。


「《プレイヤー》の店は殆んど立ち入り禁止でね、《NPC》の店で悪いけど、」


「透くんこの辺よく来るの?」


「買い物はこの辺だね。二週間前の戦争で、スラムの商人《NPC》は殺されちゃったんだ。兵糧攻めさ。」


「《ギルド》もエグいことするのね。」


「『暗殺依頼』が出てたらしくてね。」


 云いながらノーザはテスを見た。仕方なくテスが会話を繋いだ。


「たしか食料品を売ってる店と鍛冶屋の《NPC》が狙われたんだったか。まぁ、戦争中で手段を選ばない感じだったな。」


「鍛冶屋さんは無事だったんだ。」


「鍛冶屋が死んだら、うちの戦士達はもう装備の修理も出来ないぜ? それって『詰み』だよなー。」


「お陰で僕が停戦交渉の話をしたとき、反対は少なかったけどさ。食品の買い出しが面倒でね。」


 北門前の広場から少し離れた場所にある、寂れた食堂のような店に三人で入った。PKと一緒に居る所を人に見られるのも心配だったが、周囲に人影はまばらで、店には他に客もいなかった。


「……んで、自己紹介は互いに必要無さそうだけど。」


 テスはひとりため息を飲み込み、会話を切り出した。


「『鑑定屋』のテスだろ? 一回会ったかな?」


「戦争の時にな。」


「『鑑定屋』ってなに?」


 イオンがテスを見て訊いた。頭の上にしっかり『?』を表示している。


「《識別》の《スキル》持ちだよ。アイテムやモンスターの詳しいデータを調べられるんだ。」


「戦闘向けじゃない《スキル》は結構持ってるヤツが少なくてね、商売になる。」


「なるほど。」


「僕は……まぁご存知のノーザ・ゴーンさ。」


「透くんは、バイトの家庭教師の生徒。すごく頭がいいの。『現実』でも背が高いよ、無口だけど。」


「無口ねぇ……」


 無口というのは、目の前の軽薄な印象の笑みとギャップがある。『仮想現実』の中で割りきって演じているのかもしれないが、そう思うと笑い顔がわざとらしい。


「でもなんでPKなの?」


 イオンがいきなり訊いた。テスにしてみれば「あなた快楽殺人鬼ですよね?」と訊くようなものだ。――ひょっとしてコイツまた『?』を出したくて質問しただけなんじゃ?

 何も考えてない屈託のない顔。質問はなんでもよかったらしい。ノーザも絶句していた。


「なんというか、先生らしいというか?」


ノーザが答えた。


「僕は、前に遊んでたゲームからずっとPKさ。……まぁ、この世界でログアウト出来ないのに気が付く前に、三人殺してたし。」


「死んだらログアウトって信じてるの?」


 イオンが続けて訊いた。《表情エモ》は飽きてきたのか出さなかった。何気ないようにも見えたが、緊張しているようにテスには感じられた。もしかしたら『透くん』が心配なのかも知れない。


「うーん、ウチの連中はそう思ってるのが多いな。『死んだらどうなる?』って話は色々有るけど、そっちはどんな意見が多数派なんだい?」


 ノーザがテスを見た。イオンも見た。それを今ここで云わせるか?この男、知ってて訊いてるのか。テスは苛立ちを覚え、ノーザを睨んだ。ノーザの表情は変わらなかった。本当に答えを知りたいようにも見える。今話してしまうか、いずれ話さなければならないことだった。いい機会なのかも知れない。


「もう一度さ。」


 テスはそこで言葉を区切った。続きはイオンに向かって話した。


「死んだら『ニューゲーム』だ。遅れてくる『新人さん』達は死んだ《プレイヤー》だ。」


「私はすでに死んでいる?」


 テスは無視して続けた。


「必ずそうなるか、わからない。たぶん一〇〇パーセントじゃない。《ギルド》が調べても『新人さん』より死人の方がずっと多いから『ゲームオーバー』もある。」


「『新人さん』達はこの世界のことを覚えてない。だからみんな、ベータテストが始まったばっかりだって思ってる。そいつらが前にどんな《キャラクター》でこの世界にいたのかわからない。本人も忘れてる。」


 テスはイオンを見てノーザを見た。


「《キャラクター》の中身が知り合いだったら、何となくわかるだろ? それに声はもっとよくわかる。フィルターを使っててもね。」


 それはさっきイオンとノーザが証明して見せた事だ。《キャラクター》の顔の中に《プレイヤー》の表情が見てとれる。イオンはチュートリアルの中で、鏡の像に自分の表情を見たのを思い出した。


「……私は誰?」


 イオンが呟いた。


「君は『ステラ』だった。今と同じで俺や親方と住んでいた『弓使いのステラ』だ。彼女はPKに殺されて死んだ。」


「ノーザ・ゴーンが君を殺したんだ。」

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