07
たぶんここは異世界と呼ばれる場所だと思う。きっとそれは間違ってない。
けれど19年間生きてきて、異世界なんてところに来てしまっただけでも驚愕の出来事なのに、今私は倒れそうだ。
先程私を殺そうとした人から、今プロポーズをされている。意味が分からない。
「あの王様…」
「ルーズベルトだ」
うっ…さっきも言われたんだった。
「るーずべると様?」
「好きなように呼べ」
というか、この人やけに名前にこだわるな。何でだ?
まぁいいや。
好きなように呼べって言ったし。
「で、ではベルさん!」
あ!手で顔を隠した。イヤだったのか?
「…駄目ですか?」
「いや…それでいい」
なんだったんだ?まぁいいや。
私は疑問を胸に押し込んで、王様を見上げた。
「ベルさん。私は自分を殺そうとした人と結婚するつもりはありません。私を元いた世界に返して下さい」
当然だった。私は殺されると本気で思ったのだ。あんな恐怖を味わうはもうごめんだし、殺されないなら家に帰りたい。
けれど、目の前の黒髪の人はぐっと眉をしかめた。
「それはできない。お前を召喚するときにこの国の半分の魔力を使った。つまり、お前をもといた世界に返すときこの国は滅びる。俺は王としてこの国を守らなければならない」
この国が滅びる?そんなこと私には関係ない。どす黒い気持ちが私を蝕む。
「しかしそれを無視してお前を帰そうとすることは不可能ではない、が、術式が完成するのにあと二年はかかるだろう」
二年・・・・短くはない時間だ。泣いては駄目だ。私は人前では泣きたくない。
「お前が帰る為の術式を作るよう命じる。二年だ。まず二年間俺の妃でいてくれ。俺は、お前をこの世界の全ての物から守ると約束しよう」
真っ直ぐに此方を見ていた。この世界で初めて出会った懐かしい黒髪の人。恐ろしい程の美形は見馴れているはずなのに。上手く反応できない。
「この国の王としてではなく、俺自身の意見を言わせてもらうと、俺はお前を帰したくない。だから俺はお前を落としてみせる」
そう言ってベルさんは初めて笑った。非常に恐ろしい笑顔で。何て言うか色気だだ漏れ?
「二年後、お前がまだ帰りたいと言うのならば、俺はお前を帰してやる。例えこの国が滅びることになってもだ。約束しよう。まぁそんなことは絶対に有り得ないが」
凄い自信だ。けれどこの人はきっと約束を破らない。何故だかそう思った。
「信じます。貴方を。二年間よろしくお願いします」
誠意には誠意で返す。この人は、国をかけた。私は二年という歳月をかけよう。この勝負絶対に勝ってみせる。
私は微笑んでみせた。今はただ感傷的にならないように。
目の前の美しい人は、一瞬驚いた顔をして、直ぐに無表情に戻った。
「あぁ。では、ここはお前の部屋になる。それから一応この国の王妃になるのだから、それ相応の教育が必要だ。また明日詳しいことを説明するから今日は休め。隣は寝室になっている。何かあったらその呼び鈴を鳴らせ。では俺は仕事に戻る」
そう言ってベルさんは、部屋を出ていった。
言われた通り隣の部屋にはとても大きなベッドがあった。そこに寝転がり色々なことを考える。
王妃なんて厄介そうなものを引き受けてしまった。
けれど利用できるものはなんでも利用したい。
私は自分の中にこんなにも打算的な部分があることに驚きつつ、目を瞑った。
みんな私は絶対に帰るよ。
待ってて。
この時の私は気付いていなかった。自分がこの世界に飛ばされる前に轢かれそうだったことも。国が滅びるということがどういうことを指すのかも。