10ー王様side-
更新遅れてごめんなさい。王様ターンです。次回もそうなりそうです!
それでは皆さん良いお年を!
出会ってまだ二日しかたっていない。それでもコイツに対する興味は尽きない。それは不思議であったが不快ではなかった。
異世界からきた少女の名前はトオル・シノザキと言った。この国では馴染みのない響きで、彼女が本当に異世界から来たのだとわかる。
此方の世界には唯一黒髪をもつ王族の中でも例を見ない、茶色の髪。同色の瞳は雄弁に彼女の感情を伝えてくる。
しかし、あの謁見の場を支配した同じ人物とは思えない程、今は何処にでもいる少女だ。下手すればそこらの村娘に紛れてしまいそうな。
それでも、一緒の空間にいて嫌悪感がない女は久しぶりで、やはり王妃にはこの少女がいい。俺の直感がそう言った。
容姿や家柄など関係ない。この婚姻には愛など必要はないのだから。
俺はもう二度と誰かを愛することなどない。
その点コイツは絶対に俺を好きにはならない。何故ならばコイツにとって俺は、この世界に召喚した張本人で憎むべき相手だから。
だから、コイツは都合がいい。
愛情など求めない存在のほうが楽だ。
何より、俺は権力に擦りよる女には虫酸がはしる。
故にこの世界の女よりも権力に馴染みのない少女のほうが、何かと都合がいい。
おまけにコイツは面白い。
俺のことを敬称も付けず『ベルさん』と呼んだときには、柄にもなく吹き出しそうになって慌てて顔を隠してしまった。
皆が恐れて見ない俺の瞳を、真っ直ぐに見上げてくるのも好ましい。他とは違う茶色の瞳で見上げられるのは悪い気はしない。
そんな杞憂な存在を前にして妃にしないほうがおかしい。
だから嘘をついた。コイツをこの世界に引き留めたくて。
確かにもとの世界に帰すにはこの国の半分の魔力を要する。しかしそれは、俺自身の魔力を含めなかった場合だ。俺自身の魔力を入れると人一人帰すことなど容易い。
目的の為には、手段は選ばない。少女がいくら泣いても止めるつもりは無かった。
だから
「貴方を信じます」
と言われたとき耳を疑った。その瞳には悲観する色はなく、ただ確かな決意の色があるだけだった。やはり面白い。
もう俺はコイツを、トオルを逃がすことなどない。
必ず落としてみせる。
そう心に決めた。
少女を部屋に残し自室へ戻る。そこには、この国の宰相と将軍がいた。
まぁ説明もしていなかったから当然だろう。非常に疲れた表情をしている。
面倒くさい。
無視して寝室へいこうとすると、将軍レオンに止められる。
宰相のほうはというと、俺に何か言うつもりは無さそうだ。大抵レオンが引っ張ってきたのだろう。
「おい…説明して貰うぞ」
「何が聞きたい」わかっていて問いかける。
「なにがじゃねーよっ!お前さぁ、異世界から来たやつは妃にしないって言ってたじゃねーかっ!だからお前があの娘を連れていったとき、自分の娘を妃にって言ってた貴族達を宥めるの大変だったんだぞ!」
「それがお前達の仕事だろう」
「ちげーよっ!ったく…なぁ、ルーズベルト。お前まさかあの娘を妃にとか言わねえよな?」
「そのつもりだが」
「んなっ…何でだよ!お前はまだっ…」
「レオン。言い過ぎです」
「あっ…あぁ・・・悪かった」
俺の殺気に気がついた宰相ライナードが止めた。
ライナードが止めていなかったら、間違いなく斬っていた。
それが分かったから、いつも口を挟まないコイツも言わざる終えなかったのだろう。
すると今度はそれまで黙っていたライナードが口を開いた。
「私はあの娘を妃にするのは賛成です」
「っな!!!なんでだよっ」
「レオン。貴方もみたでしょう。彼女は王妃に相応しい器です」
「確かにっ!あの娘は最初は平凡かと思ったけど違った…けどおれは納得できねーよっ!なんであの娘なんだっ」
レオンが悲痛な声をあげる。そこに見え隠れする少しの同情が疎ましい。
「納得してもらわなくて結構だ。これは決定事項で覆ることなどない。もう下がれ。お前達と話すことなどない」
威圧感を添えてそう言うと流石のレオンも口をとじ、ライナードと共に退出の礼をとり出ていった。
一人になった部屋で、イスに寝転ぶ。目を閉じると浮かぶのは金髪に翠の瞳の少女。
先程のレオンの言葉が頭にこだまする。
………あぁ。わかっている。俺は今でもお前を。シーナを愛している。
朧気な彼女との記憶に想いを馳せながら俺は眠りについた。