09
お話が進みません…
進め!ごま!
はい。ごめんなさい。
一瞬で変わった景色に驚く暇もなく、今まさに私はベルさんと二度目の対面を果たしていた。
そしてそのベルさんはというと…何故か硬直している。
おーい?ベルさーん?
どうしてこうなったかというと
大きな扉の前に瞬間移動した私の隣にいつの間にかいたラナが、
「王妃様をお連れいたしました」
と言うと中から、
「入れ」
と声が聞こえ、扉が開いた。
部屋の中にはベルさんがいて、朝食が用意されていた。美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
お腹へった。そういえば昨日から何も口にしていない。入れって言われたけど…誰に言ったんだろ?そう思案していると、
「どうした。入ってこい。トオル」
と名指しで呼ばれたので
「失礼します」
と言って室内に足を踏み入れる。
そして話は冒頭に戻るのだけれど。
依然固まったままのベルさんが私の前にいる。
扉が完全に閉まって室内には私とベルさんしか居ないので、思い切って声をかけた。ご飯が冷めちゃうし。
「あの…ベルさん?」
一瞬顔が強張ったみたいだけれどたぶん見間違えだ。次の瞬間には無表情に戻っていたし。
ようやく固まったままのベルさんを元に戻して、一緒に朝食をとる。
パンはふわふわ。スープはポタージュみたいな味がしてとても美味しい。
暫く夢中で食べていると、前から視線を感じる。見られてるよね…?
どうしよう…食い意地張ってると思われた?
ちっ…違うんです!普段はこんなに食べないんです!
あー!恥ずかし過ぎて泣きそうだ。赤くなった顔に気付かれたくなくて、俯く。
すると、視界の端で手が動くのが見えた。
ベルさんが私のお皿にパンを置いていた。
「俺の分も食べろ」
なんていうか…
この態度とこの目には見覚えがある。
私だって十九年間この童顔で生きてきたのだ。
もとの世界でも、中学生のとき、公園で人を待っていただけなのに、知らないお爺ちゃんにお菓子を沢山貰った覚えがある。たしかその時、
「お使い偉いね」
などと言われて、ショックを受けた。どうやらお爺ちゃんには私が小学生に見えたらしかった。かりにも受験を控えた中学三年生だったのに。
高校のとき、好きだった人に、
「篠崎は妹みたいだな」
って言われて、二日間泣き通した記憶がある。彼の中では、私は恋愛対象ですらなかったみたいだ。告白しなくて良かった。
まぁその他にも色々な『童顔武勇伝』はあるけれど、様々な経験をしてきた私だからこそ、この目には見覚えがある。
この目は小動物や子供を慈しむときの目だ。つまりは……
「あのベルさん。私って何歳に見えますか?」
「十三歳ぐらいじゃないのか」
デジャブだ。本日二度目の訂正をしなければ。どうしてここの人達は…
「私、十九歳なんです」
信じられないという顔をしたベルさん。いえいえ…本当ですから。
「では成人しているということか」
「私の世界では成人は二十歳からですから、まだですけど。こちらの成人は何歳からなんですか?」
「十五歳だ」
「十五歳!?じゃあ私成人してますね」
「あぁ。良かった」
良かった?なにが良かったんだろう。
まぁいいや。他に気になることもあるし。
「あのベルさん。どうして私をここに呼んだんですか?」
「お前と一緒に朝食をとりたかった」
うっ…不意打ちだ。顔がまたあつくなる。だから美形は嫌いだ。
「あっあのベルさん!あのですね!」
「冗談だ」
クスクス笑われて、からかわれたと気付いた。
「ベルさん。正直に言ってください」
気分が悪いぞ。私は。
いくら平凡でも、からかわれるのは嫌だ。
「半分本気なんだが…まぁいい。実は、二週間後にお前と俺の婚礼が行われる。その際お前には、きちんとした振る舞いをして貰らわなければならない。そこで今日からマナーとこの国の歴史を学んで貰う」
…まぁ頑張ります!