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ダブルフェイス  作者: ジジ
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白い脈動

 ◇四月一日早朝◇


 まだ肌寒い風が街道を吹き抜ける中、俺はちんたらちんたら緩やかな煉瓦敷の坂道を登って行く。あたりは静まり返っており、見渡すとそこかしこになかなか立派な一戸建てが立ち並んでいる。

 左側には綺麗に黒いアスファルトで舗装された車道があり、軽快な速度で走り去って行く車は見当たらず、まだ朝焼けの空が頭上には敷き詰められている。

 体を震わせる寒気、すべてを染め上げる純白の雪と長い夜が支配する白黒の季節は過ぎ、雅な桜色に染まるシーズンは到来したばかりで、まだ使い古した酸素を吐き出せば霞みとなって表出する。

 俺達が今生活しているこの世界とはなんなのだろう?

 数年前から俺はふとそんなことが気になるようになり、その疑問にひたすら答えを求めていた。けれど、今になったらどうでもいいように思える。そんなものは哲学的に考えれば、定義する人によって内容は変わる。

 それに周りから何を言われても最終的に納得も批判も自分自身がするのだから、結局は自分の世界の捉え方を全て理解できるのは自身だけだ。

 人には個性がある、故に人はそれぞれ個々の思想と正義を持つ。だからこそ人は争いを起こすのだろう、この世界が今に至るまでの歴史がそれを物語っている。

 だから俺は考えることをやめた、俺の中では一応の答えも導き出した。何より俺の考えを誰かに認めて貰う意味自体皆無なのである。

 さて、随分生意気なこと考える、ませたガキだった俺もそれなりに歳を重ねた。そして、ついに甘酸っぱい青春を彩る高校生と言う、ちょっとだけアダルティーな世代の仲間入りを果たした訳だ。

 はぁ、ガキが何を言っているのだろと俺は心の中で溜息を吐いてしまう。こんなもの想いに深けている自分をかっこいいと勘違いしているのだろうか、時々こんな考えても無駄なことばかりを頭の中で交錯させている。

 さて、今の状況はまさにこれから新に三年間も通う学校に向かう道中な訳である。

 周りに視線を向けてみる。

 誰もいない、なんとも寂しいものだ。

 それも当たり前である。

 現在、時刻は午前………

 なんと五時過ぎ。俺は阿呆だろうか、なんでわざわざ入学式の日にこんな朝早くから学校に向かわなければならないのかと一人で虚しい自問自答を行ってしまう。世間一般のみなさんもきっと俺を阿呆だと思うことだろう。

 しかし、これには理由がない訳ではない。

 実にしょうも無い理由ではあるが、断じてない訳ではない。

 俺は日の出前に突然トイレに行きたくなって目を覚ました。まだ起きるには早過ぎる時間帯で、勿論ベットから這い出るのは面倒だった。

 しかし、かといってマットレスの上に俺の汚らわしいバイオウェポンを投下するわけにもいかない。そう、俺のトイレへの用事は小さい方ではなく、大きいほうだった。

 仕方なく布団を跳ね退けて厠へと足を運ぶのだが、トイレの扉を前にして俺は驚愕の事実を思い出す。それはそこから更に七、八時間程前のことだった。

 昨晩俺はトイレを掃除していた。やはりトイレはピカピカに澄み切った純白を己の汚物で汚すからこそ気分も爽快になる。ならば、汚す前には当然トイレを純粋無垢でピュアな状態に戻さなければならない。

 だから俺は必ず、毎晩汚れた愛しい便器を真心込めて磨くことが日課となっていたのだが、昨日に限ってはイレギュラーが発生したのだ。

 俺はいつものように便器磨きを片手に心を込めてトイレを懇切丁寧に掃除していた。掃除も進み、いよいよトイレの最深部を残すのみとなった。排水口にブラシを突っ込んで磨こうとした時、ブラシのヘッドが便器の奥で悲鳴ともいえない鈍い音をあげるのを俺は耳にした。

 俺はまさかと思い、慌ててブラシを排水口から引き上げてみる。すると、そこにはあるはずのものが根本からスッポリとなくなっているではないか。

 俺は「うそ~ん」と小さな悲鳴を心のなかで叫ぶ。世界の中心ではなく、トイレの中心で一切の雑念を排除してひたすら叫ぶ。

 だが、いくら叫んだ所でブラシのヘッドが再生するはずもない。俺は今日が厄日だということをはっきりと悟った。

 そして、便器口内に手を差し伸ばすだけの勇気も、根性も、忍耐も備えていない俺は取り敢えず無意味に自分の不幸に浸ることを一旦中断した。仕方なく業者に電話を掛けようと思い、固定電話でダイヤルを回した。

 業者のおっちゃんは優しそうな声で応対し、俺は「明日の夕方頃に修理に伺います」の一言に安堵と煩わしさと自分の不運を嘆きながら電話を受話器に戻した。

 その晩はとても別のことをする気も起きず、俺はふて腐れてすぐに床に就いたのだ。

 つまり俺はトイレのために一時起床したまでは良かったが、現状、その状況下ではトイレで用をたすことができないのだ。あのブラックホールのように俺の危険物を吸い込み何処かへ運び去ってくれるトイレは完全に機能不全に陥っていたのだ。

 俺は時計を確認した。

 まだ午前五時十分前だ。

 業者が来るまではざっと見積もってもまだ十二時間以上も先。遠い未来の話だ。

 近場でトイレの使える施設は駅、若しくは学校だろう。この時間ならば駅は開いているが、駅のトイレは改札口の向こう側にある。

 駅員に言って通してもらうことはできるだろう、だが問題が一つある。恥ずかしいと言う重大な問題がある。こんな早朝に突然、シャッターの上がったばかりの駅でトイレを貸して下さいと祈るように懇願するなど醜態でしかない。

 加えて、家から駅と学校は正反対の方角に位置している。駅までお手洗いを借りに行って、また家に戻ってそこから学校に行くことは可能ではあるが一度家を出たにも関わらず、また戻るのは気が進まない。むしろ何故俺が恥を凌いだ上でそんな面倒臭いことをしなければいかんのだ、不本意この上ないことだ。

 ならば、学校はどうだろうかと俺は考えを切り替える。

 学校なら今日は入学式だから準備も兼ねて早くから開いているはずである。しかもユニオン・ホールディングズ附属の高等学校ならば最新鋭の設備と教育を備えている。つまり真新しい便器が設置されていている上にウォシュレットも無論完備されているはずである。

 距離も駅と学校を比較すれば学校の方が近い、何よりまた家に戻る必要もなく、そのまま学校で余った時間を睡眠時間に充てることもできる。そのメリットは俺にとっては大きい。

 ふふふ、決まりだな。

 俺はそう決断を下し、颯爽と洗顔と歯磨きを済ませ手早く制服の袖を通した。腰に何年か前に亡くなった祖父の形見の刀を装着する。

 最後にきちんと戸締まりを確認し、家を出たのだ。

 まぁ、そんなわけで現在に到った訳だ。チンタラ歩いている原因は迫り来る衝動への我慢の余り若干内股気味になっているためで、意気込みだけは全力疾走である。

 そんな風に一人朝の回想をしながら交差点を右に曲がると俺の数歩後ろに同じ学校の制服を着ている生徒が視界の隅に入った。

 俺は自分のことを棚に上げて、こんな時間に登校する変人はどんな奴だという野次馬のような好奇心で視線が重ならないように振り返ってその生徒を確認する。

 いや~、正直驚いた。

 艶やかな黒髪の長髪を後ろで結ってポニーテールにしているその生徒は女子生徒だった、しかも飛び切りの美人だ。凜とした顔立ちの中に少しだけ幼さが残り、瞳はパッチリとている点が印象的だった。 すらっとしたスタイルとは裏腹にその胸部は、見る者を圧巻させる幕末最強と謳われていたアームストロング砲が二門設けられているかのようだった。

 加えて歩き方や姿勢など、立ち振る舞いには気品が漂っていて育ちの良さを伺わせる。彼女は護身用に控えめに装飾されている細剣一振りを腰に携えている。こんなかわいい女の子でも武器を携帯しないといけないとは世も末だなと俺は生意気にも世間を嘆く。

 俺は彼女の美貌に少々驚いたが自分には縁遠い存在であることはしっかりと弁えているので、別段話し掛けようともしない。ただ勿論俺も健全な男の子であるからにはお近付きになりたいという願望がないとは口が裂けても言えない。

 と、そんな彼女のことを考えながら登り坂の急カーブに差し掛かったところで斜め右前方からタイヤの削れる大きな音が不意に聴覚を刺激した。

 俺が視線をそちらに向けると前方の緩やかに歪曲した坂をものすごい勢いでこちらに向かって来る車が映る。真っ黒のセダンであちらこちらに傷や凹みがある。恐らくここに至るまでに既に幾度か車体を何かにぶつけたためだろうと俺は推測した。

 車はそのままの猛スピードを維持して、こちら目掛けて猪突猛進。しかも運転席は‥‥‥誰も座っていない。無人、在り得ないと俺は自分の肉眼で確認した目の前に広がる光景を疑ってしまう。

 何故だ、現状の理解に苦しむ。

 何故無人の車がこんな閑静な住宅街を猛スピードで疾走している。しかもさっきのタイヤの削れる音は明らかにドリフトかスピンのした時に発せられる音、無人で誰も運転していない車がステアリングを回すことなど起こり得るはずがない。

 誰かが遠隔操作している?

 まさか、ラジコンじゃないんだぞ! と俺は自分の導き出した答えをあっさり否定しようとするが、残念ながら眼前の車の動きは何者かの故意で意図的に操縦されているとしか考えられなかった。

 俺は自分のピンチにも関わらず頭の中で納得できない今の状況に呆れる。何このB級映画みたいなシチュエーション、全然面白くない。

 しかし、自分達が絶体絶命的ピンチを迎えているこの状況は紛れもない現実である。俺は仕方なく現在の状況が夢でも特撮でもないことを認める。

 さっきの可愛い女生徒は俺の後方三メートルくらいのところを歩いている。あれでは車は未だ見えない。俺達と車の距離は十五メートル程だろうか。このままでは二人揃ってピンポン玉のように跳ね飛ばされてしまう。 

 あんな綺麗な女の子と一緒ならと若干の気の迷いは生まれたが俺は直ぐに自制し、車の標的を推察する。

 俺が誰かに狙われるなんてことはまずないだろう。こんなそこら辺に群がっている蟻と同じ位の価値しかない俺を狙うなんて、ど阿呆のすることだ。となると車の狙いはやはり後ろの品格漂うお嬢様だろうと予想を付く。もし令嬢ならば他者に狙われる理由はありそうだ。全く、お嬢様ならこんな時のためにSPでも付けておいて欲しいものだと俺は嘆息する。

 どうしたものかと俺は僅かに悩む。今彼女を助けるために駆け出せば俺のお尻のハッチは全開になってしまうかもしれない。おまけにそれで蝦蟇蛙の様に轢かれ死んでしまったら今世紀最大の恥さらしだ。

 しかし、だからと言って後ろのお嬢様が跳ねられて良いはずもない。美しい者は世界遺産に指定すべき、が俺の信条である以上彼女を守る義務が俺にはある。第一、目の前で人が跳ねられたら寝覚めも悪い。

 俺は僅かコンマ数秒の間迷い、すぐに決意を固めた。まだ車に気付いていない女の子の方に振り向き近き、駆け寄る。彼女を抱き抱え、お尻に注いでいた力を全て足の踏み込む力に回す。

 彼女は俺の突然の行動にかなり戸惑っていた。しかし、そこで状況説明する余裕は全くないので俺はうろたえる女子生徒を無視して彼女を抱えた状態で車道の向かいにある民家の外壁側に目掛けて決死のダイブを試みる。

 俺の爪先に黒のセダンのバンパーが僅かに掠ったのか痛みが走った次の瞬間。轟音とともに車は俺達の後ろで塀に突っ込みペシャンコになって大破していた。

 女生徒は何が起こったのか分からないと言った表情浮かべ、状況に困惑しながらもゆっくりと起き上がり、助けてくれた男子生徒、すなわち俺に声を掛けてきた。

「そんな車が突然、貴方が助けてくれたんですか?」

 彼女は見た目道理可愛らしく上品な声だった。しかし、その美声に魅了されるだけの余裕は俺にはもはや皆無だった。俺は立ち上がることもできず、下腹部を手で抑えている。既に俺の便意は臨界点に達する寸前だった。

 彼女は蹲って黙り込む俺を見て心配そうに覗き込み、声を掛け続けてくれた。

「何処か怪我されたのですね。すみません、私のせいで。今救急車を呼びますからもう少しだけ我慢して下さい」

 どうやら彼女は自分が狙われたことに心当たりがあるようだ。しかし、今はそんなことはどうでもいい。俺にはもうまともな会話を交わすだけの余裕がない、頭の中では先程痛みを忘れ「漏れる」の三文字が延々無限ループしている。

「ト、トイレに………」

 俺は残った最後の余力で言葉を搾り出す。

「へ? トイレですか?」

 彼女は困惑していた。どうやら俺が置かれている状況がいまひとつ理解できないらしい。

 まぁ、当然だろう。俺なら倒れている人がいきなりトイレと訳の分からないことを懇願して来たらドン引きするね。

 全く、せっかく間一髪で命が助かって、女の子も救うことが出来たのに社会的に俺の死亡が確定するなんて不運以外の何物でもない。

「あの、もしかしてお手洗いに行きたいのですか?」

 て、天使だ。彼女は天使に違いない。この状況下で俺のつたないメッセージを理解してくれるなんて感激だった。ガブリエルはジャンヌ・ダルクの次に俺の下に舞い降りて来てくれたんだね、地球に生まれて良かったーーーーーと心の中で歓喜の思いを叫ぶ。

 俺は己の感激を一旦抑え、頭を激しく上下に振って彼女に意思表示する。

 彼女は俺の意思を理解したのか、すぐに目の前にある民家の呼び鈴を鳴らしてくれた。

 ん?

 なんか間違ってないか。何をしてるの?

 何故に見知らぬ人の家のインターホンを押すの?

 もしかしてこの家の持ち主の知り合いか、何かなのだろうかと俺は彼女の行動を不思議に思った。

 しかし、例えそうだったとしても、いくらなんでもさすがに俺自身とは関わりない赤の他人のお宅で用を、しかも大きい方をするのは気が挽ける。

 家主と思われる女性はすぐに玄関先に出て来た。

「あの突然でぶっしつけなのですが、この方にお手洗いを貸してあげていただけませんか?」

 彼女は堂々と恥じらいもなく家主の女性にお願いしてくれた。

 嘘だろ、君も他人なのかよと俺は彼女の言葉に耳は疑った。

 何処の世界にいきなりやって来た赤の他人の来訪者にトイレを貸してくれる聖人がいるのだろうか。テレビで放送されている『突撃、隣の晩御飯』とはわけが違うのだ。

「はぁ、まぁ、構いませんよ。どうぞお使い下さい」

 家主はあっさりと承諾する。

 マジですか、ここにキリストの生まれ変わりが居るんですけど、どれだけ心の広い家主様なのだと俺は内心で彼女を称えている。

 が、そんなことをしている場合ではなかった。今も一秒毎に死へと誘う大鎌を携えた死神は俺のお尻へと歩み寄って来ている。ここでの死は無論社会的と言う意味だが、俺は干からびた蛙のような惨めな声で

「すいみません、お借りします」

 と家主に一言断りを入れてトイレの場所を聞き、超特急で駆け込んだ。

 家主の女性は俺の様子を見て多少困惑していたが迷惑そうな素振りは一切見せず、快くトイレを貸してくれた。

 助かった‥‥‥

 俺は用を終えるとトイレをしっかりブラシで掃除する。勿論ヘッドが折れないように細心の注意を払ってだ。

 俺はトイレから出ると家主に深々と頭下げて

「本当に助かりました。ありがとうございます、貴方は命の恩人です」

 と礼を述べた。

「そんな、良いのよ。別に大したことはしてないのだから」

 と家主。俺はこの方はいつか本当に神さまとなるのだろうと心の中で二、三度無意味に頷いていた。

「あなたたち、その制服はユニ高の生徒さんよね?」

 と家主様は俺達に尋ねてきた。

 ユニ高とは俺が今日から通うユニオン・ホールディングズ附属高等学校の略称で、この学校はパイオニアの中でも強力な能力を所持し、尚且つ学力の高い者だけが通学を認められる、いわゆるエリート学校である。

「はい、今日入学式なんです」

 俺の隣に佇む、お嬢様が家主の質問に応えた。どうやら彼女は俺と同い年のようだ。

「そう、それならまた後ほど会いましょう」

 家主の発言に俺の頭上に疑問符が点灯する、何故後ほど会うのだろうかと。

「ところで、うちの塀に突っ込んでいるその車は何かしら?」

 家主は先程俺達をミンチにしようと猛スピードで突進してきた、元車だった物体を指差して尋ねてきた。

「それが歩いていたら突然襲ってきて」

 俺が事情を手短に話す。

「でもその車、人は乗ってないみたいよね。そんなこと在り得るかしら?」

 確かに運転席は蛻の空である。現代の車は一昔前の物と異なり動力源は電力に移行し、その制御も電気信号で行われる。エンジンの始動には指紋認証が要求され、車に登録されたデータに基づき本人確認がなされる。運転席に運転手がいなければサイドブレーキも外れない仕組みになっている。                 

 また、事故防止のため、車線上十メートル以内に人がいればセンサーが感知し自動的に急ブレーキが掛かる安全装置も設置されており、このような事故は普通在り得ない。

「誰かが、意図的に起こしたとしか」

 俺は頭を傾げながら応える。

「それにしたって変よ。車はこれだけのセキュリティーを設けられているから盗難は殆ど不可能になったのにそれを無人で操作するなんて」

 家主の疑問も、もっともだとは思うがこの鉄の塊は現に俺達を襲ってきたのだからどうしようもない。いくら理論上不可能でも無人で暴走したことは事実なのだ。

 すると女の子は俯きながら呟く。

「一応、公安企業に相談してみます」

「そのほうが良いわね」

 と家主は相槌を打った。

 俺達二人はその後再び家主に頭を下げて礼を言い、その場を去った。一まず、学校に行く前に公安企業に報告と捜査の依頼に向かうのだ。まだ時刻は六時前、入学式は九時からだから十分に間に合うだろう。

「お礼が遅くなりましたね、先程は危ない所を助けて頂いてありがとうございました。お名前をお伺いしても宜しいですか?」

 女の子は実に丁寧に先程の事故の礼を述べ、俺の名前を尋ねてきた。

「俺は雪白恭介、俺も今日からユニ高に通うんだよ」

 まぁ制服が同じなのだからわざわざ説明する必要はなかったが、敢えて俺は捕捉した。

「本当ですか。じゃあ、同級生ですね。あ、自己紹介が遅れました、私は藤堂春香と申します」

 藤堂春香はにこやかに微笑み、自己紹介と同時に一礼する。俺は彼女に微笑みながら応える。

「まぁ、同級生だしそんなにかしこまらなくてもいいよ。敬語もなしで、ね」

「そうですね………わかった。じゃあ私のことはハルカって呼んでね」

「うん。じゃぁ、俺のことはキョウで」

 俺達二人は互いに笑顔を綻ばせながら自己紹介を終えた。

 これが俺とハルカの最初の出会いだった。


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