第17話 五百円の授業。
体育館は子ども達のざわめきでふくらみ、床のきしみまでが走る足音に合わせて鳴っていた。歩は台車に載せた黒板を押し込み、白い線で四つの欄を描く。〈事実/気持ち/譲れること/譲れないこと〉。結月はクッキーの袋を開け、短く言う。
「投票は「お菓子シール」。甘さで覚える」
最初の五分は嵐だった。笑い声、私語、椅子の軋み。拍子木が三度鳴ると、円の真ん中に「話す番」の静けさがすっと置かれる。最初に手を挙げた低学年の子が前に出て、舌を噛みながら言った。
「十円しかないけど…………「一歩」でした」
体育館がどっと笑い、先生が慌てて両手を振る。「いえ、集めません!」 笑いがほどけると、黒板の下に小さな字が増えた。〈「一人でいたい」ときもある〉。歩は声を落として続ける。
「「事実」は誰のものでも同じ。「気持ち」は一人ひとり違う。――「違う」から、話す」
シールは砂糖菓子の色で埋まっていく。譲れることの欄に貼られた青が、譲れないことの欄の赤と向き合い、間に黄色が一列置かれた。合図みたいに。
帰りぎわ、掲示用パネルは壁に残された。先生は深く頭を下げる。
「今日の「拍手」は、明日の「静かな帯」につながります」
校庭のベンチに白いタイマーが三つ並び、下校時刻の一角がそっと空いた。紫瑠璃通りに戻ると、看板犬見習い・るりが尻尾をとん、と鳴らす。歩は黒板に小さく追記した。
「五百円の授業」完了/「静かな帯」校庭版:11:50―12:10
「「甘い時間」、学校にも残る」
結月の声は短い。だが、その短さが、確かだった。




