狩人の食事
しいなここみ様『いろはに企画』参加作品。
テーマが「食欲」になります。
ミステリアス系のホラーです。強烈な恐怖・残酷さはありません。
「お前って いっつも まずそうに 食うよな」
向かいに座る同級生に言われて、内心ドキリとする。
だが、決してラーメンをすする この顔には出さない。
私は瞳だけを動かして、12年来の友人をチラリと見上げた。
「そんなこともないと思うが」
「満腹になったって喜ぶことも無いよな。愛想も良いし、もてるし、顔もいいのに、結婚できないのなんとなくわかるぞ。お前に毎日飯作るのなんか、オレなら絶対 心折れそう」
その言葉に思わず笑いが漏れる。
「大丈夫だ。オレに毎日お前が飯作る予定は組まなくていいから」
気のいい友人は仏頂面になった。
その顔に私は笑いながら、自分を満たすことはないラーメンを食べ切った。
「じゃあ!またな!」
ラーメン屋を出ると、鷹山裕人は大きく手を振って帰っていった。
昔と変わらず いいヤツだ。彼が女でなくて良かったと心底思う。
ラーメン屋からは離れ、家に帰るルートに入る。
途中、会社のビルの前を通った。
「夜岸さん!」
通り過ぎた頃に後ろから声をかけられた。知った女性の声。これは…………
振り返ると長い髪を一本にまとめ、シュシュをつけて、化粧をしっかりほどこした若い女性がいる。
「ええっと、受付の…………」
名前は出てこないが、後は相手が引き継いでくれた。
「新川です!新川めぐみです!夜岸さんはいつも挨拶してくださるので、私嬉しくって。今 お姿をお見かけして、思わず声をかけてしまいました!」
彼女はその白い頬を赤らめた。恥ずかしそうにこちらを見上げてくる。
甘い香りが鼻につき、空腹で、口の中に唾液が湧き上がる。
" 腹ガ減ッタ "
狩るものの本能のように、冷たい笑顔が浮かぶ。何も考えなくても、その言葉は口から滑り出た。
「もう遅いから、送るよ新川さん。家、どっち方向?」
「え?」
1人暮らしの女性かもしれない。警戒心を起こさせてはいけない。
「方向だけで良いよ。行っても途中までだ。それに、全くの反対側なら、流石に送れないな、すまないね」
常套文句を冗談っぽく言って微笑むと、彼女も他の女達と同じように、途端にうっとりとして、気を許したのが分かった。
「私はあっちの西街道の方なんです、夜岸さん。でも、あまり違う方角なら申し訳ないです」
「全然問題ないよ。西街道からも私のうちには着くから。途中まで、一緒に行こう」
そうして、私達は歩き出した。
2人で歩道を歩いていたが、西街道への近道に、私は彼女に公園を突っ切ることを提案した。彼女は断らなかった。
「夜岸さんは、こんな時間まで何をしていたんですか?」
新川めぐみの投げかけてくる視線から瞳をそらさず、むしろ愛おしささえ伝わるように見つめ返す。何も偽ってはいない。君が欲しい。君が必要だ。
「残業で会社にいたんじゃないんだ。角のラーメン屋で高校の同級生と会ってた」
「角って…………"南州" ですよね?なんだか意外です!夜岸さんは高いパブとかクラブで飲んでいるのかと思ってました!」
新川めぐみは笑顔になった。私も微笑んで答える。
「全然違うよ。上司と行くこともあるけどね。仕事が終わったら1人の家に帰るだけ。寂しいもんだよ」
彼女のこちらを見る瞳が煌めきを増したのが確認できた。
「今度一緒に行ってみるかい?」
近づき、彼女の耳元に囁くように声を落とし、優しく尋ねる。
「えっ?え?あの、わ私……お邪魔しても…………?」
彼女の眼前に立ち塞がり、私はニッコリと微笑んだ。
「ラーメン屋だよ、南州!一緒に行く?今度昼休みにでも」
「あ!ぁあ!ラーメン!そうですよね!そうですよね!?」
新川めぐみは真っ赤になって頬に手を当てた。なんて愛らしく、うまそうな女性だろう。
「家でも、どちらでもかまわないよ。私はね」
私は彼女の両肩に手を置いた。
新川めぐみがこちらを、期待した瞳で見上げる。
私は彼女を包みこみ 一瞬だけ望みのものを与え、そして
欲しいものを奪った。
新川めぐみは事務的に私に礼をして、不思議そうに公園を出て行った。
私は満たされた腹を軽く叩いた。
"美味カッタ"
私の食事は私への恋心。何故こうなのかは不明だ。
いつか私を愛してくれる女性がいなくなった時
自分が何を欲するのかは…………
まだ 私にモ
ワカラナイ
読んで頂きまして誠にありがとうございました。
まとめた上でより良いものが書けるようこれからも精進して参ります。
シロクマシロウ子




