第2話 対策会議に臨む
「ヒルトラウトㆍシャルㆍツヴァイクはいるか?!」
その声と共に第5騎士団の団長室に飛び込んできたのは、王城の若い文官であった。
「失礼だぞ敬称をつけろ。」
「構わん、何だ。」
顔を顰めた副団長が静かに訂正を入れるがヒルトラウトによって軽く流される。
「失礼いたしました!急ぎの伝達があり…」
「内容を簡潔に。」
何やら言い出しにくそうな文官を副官が急かす。
「っ…今度の式典の後の舞踏会には、必ず出られよとのこと…っ!」
その時副団長、副官は共に尊敬する団長の全力の拒否顔を初めて見たのだった。
「………ちなみにどなたの言葉か。」
「宮殿にお越しになられていた第2騎士団団長さまよりお預かり致しました。」
「……………………検討させてくれ。」
「可能な限り早いお返事をお待ちしております。」
苦悩に満ちた姿で辛うじて応答する団長に対し、文官は文官で青ざめた顔で保留という返事を受け取った。それもそうだろう。第2騎士団は全騎士団の中で近接に特化した武力を誇る。ちなみに第1騎士団は剣。第3騎士団は魔術。第4騎士団は機動力に長けている。第5騎士団はそれらすべてを満遍なく器用にこなすが、彼らほどの抜きん出た才の無い者たちと言えるだろう。
「…彼も第5騎士団より第2騎士団の方が怖いんですね。」
「当たり前だあの人より怖いものはそうそう無い。…すぐに対策会議を開こう…」
珍しく副官が零した言葉はかつて直属の部下でありながら問題児として扱われていた団長によって呆気なく散った。
「ただいま。」
「おかえりなさい姉上。」
「姉上おかえりなさい!」
弟と妹の元気な歓迎。ヒルトラウトがちゃんと帰宅するのは3ヶ月ぶりだった。
「珍しいですね。」
「ちょっと相談があってな。」
ヒルトラウトが多忙な中無理にでも帰った理由は明白だ。舞踏会に出ろと言われた話をするためだ。
「本気ですか。」
「姉上が辛いならお断りすべきです!」
過保護な弟妹に恵まれたらしい。だがしかし彼女の脳内に再生される恐怖の言葉はどんな脅し文句でもない。第2騎士団団長という言葉だ。
「…元上官の命なんだよなー…。カール、私は死にたくは無いんだ。」
「では適当に社交界マナーについて記された本と、毒を見分ける方法が記された本、それから隠密の魔術について記されている本を何冊か適当に用意しておきますね。」
「出来た弟だよ全く…」
ヒルトラウトがカールの背中に呟いているとリナリーがバタバタと紙の束を持って来た。
「これ、隠密以外で使えそうな魔術の術式。私が組み替えたものも書き留めてあります。兄上には内緒でひとつ。」
声を潜めて渡してくるのでヒルトラウトはおもいっきりリナリーの頭を撫でてやった。
その姿を見たカールとリナリーが密かに火花を散らしていたことに姉は気づいていない。
「とりあえずこれで何とかするよ、ありがとう。」
意気込んで臨んだ対策会議は、ものの数分で幕を閉じた。いざとなれば舞踏会の途中で逃げる算段をつけるヒルトラウト。しかし姉至上主義の弟と妹には気づく術など無かった。




