10 純粋な剣士でなかったとしたら
「なんと言われようと構わん…。キィ・ディモン、勝負だ!」
雄叫びをあげたグリードの額の眼が、光を放ち始めた。気力を爆上げしたグリードが、俺に襲い掛かる。
凄まじい連続攻撃を、俺は発力を全開にして躱し、受け流す。俺は視界の隅で、ニャコがセレス隊長に治癒術を施しているのを確認した。
「よそ見をするな!」
ダガーが俺の右頬をかすめる。ひりつく感覚の後に、血が流れるのが判った。俺はグリードに言った。
「お前…その額の眼を付けたという事は、操り人形になったという事じゃないのか?」
「これは我らが使徒の証、深眼だ。深層の衝動を開放すると同時に、付けた者の力を増大させるものだ。前は見せてなかったが、お前には深層の力を解放すべきと判断したのだ」
「そうか。元からそうだったのか」
それが判れば充分だ。
俺は衝気を爆発させた。
瞬間に移動して、真の一撃を斬り込む。
グリードは逆手に持ったダガーで俺の剣を受ける。と、右手のナイフが俺の喉に襲いかかった。
俺は左手で腰から特殊警棒65型を逆手で引き抜き、ナイフを防御する。グリードの顔に、驚きが走った。
が、俺は次の瞬間、右手の剣を手放した。
「なに!」
右掌をグリードの胸にあてる。
「真解衝打!」
衝気がグリードの全身を貫いた。
「ぐぁ……」
グリードが、意識を失って倒れていく。
「馬鹿な……剣士が剣を手放すなど…」
「俺は刑事だ。純粋な剣士ではない」
俺はそう答えながら、地面に落ちそうになる剣を掴んだ。代わりにグリードが仰向けに倒れ込む。地面に倒れた時、その一つ眼のゴーグルが壊れて外れた。
「こいつは――」
俺の中で、何か違和感が生じた。
「グリード! だから、やめなって言ってるのにさ!」
俺の処へ、巨大なカマキリの分霊体が襲ってくる。
俺はそれを切ろうとした。が、その剣が紫の髪で防がれる。
「ならば!」
俺は剣を地面に立てると、銃を抜いた。
「衝撃射!」
カマキリのファントムが、銃の弾丸を斬る。が、その身体を貫いて、レディ・スィートに電撃が直撃した。
「ウソでしょ――ファントムで防御したのに……」
レディ・スィートが、驚きの表情のまま昏倒する。
「チッ、どいつもこいつも使えない!」
テラー博士が苛立ちの声をあげると、黒手袋を倒れているグリードに向けた。
「ゲート!」
グリードの傍に、空間の歪みが起きる。と、グリードの身体が、そこに放り込まれた。テラー博士の力場魔法だ。
続いてレディ・スィートの傍に、空間の穴ができる。
「ガリーシャ! レディを運びなさい!」
「は、はいぃ!」
傍にいたガリーシャはレディ・スィートの身体を抱えると、その空間の穴に飛び込んだ。
そして空間の歪みはテラー博士の傍に現れた。
傍にいたボウが声を上げる。
「オ、オレも連れてってください!」
「貴方は用済みです」
テラー博士はそう言うと、黒い手をボウに向けた。重力弾が発射される。
「ひっ、ひぃっ!」
ボウの胸に重力弾が直撃すると、そこにはボールサイズの穴が空いた。ボウが口から血を流して倒れる。
「あれは!」
あれは――あの傷口、あの穴は――
「それでは、さようなら。またお会いしましょう」
テラー博士が空間穴に消えていく。
その場が静けさに満ちた。
「キィ、あの傷口は……」
シイファにも、驚きの表情が浮かんでいた。シイファも気づいたのだ。あのテラー博士の魔法の傷口が――
俺が殺された傷と、そっくりだという事を。
「キィ、セレス隊長もチルルちゃんも、なんとか持ち直した」
ニャコが声をあげる。だが俺はそれに答えることができないほど、動揺していた。




