9 幹部が勢ぞろいしたら
アリアンは腰から抜いたのは、鞭だった。その鞭はうなりを上げたが、先端から気力による光の鞭がさらに伸び、逃げようとするガリーシャの足に絡まった。
「ひっ、ひぃ!」
倒れたガリーシャが悲鳴をあげる。しかしそこに、紫の髪が伸びてきて、光の鞭を分断した。
「何者だ!」
現れたのは予想にたがわず、一つ目の仮面をつけた女――レディ・スィートだった。俺は声を上げた。
「アリアン、そいつは気力を吸い取る能力を持っている。気を付けろ!」
「なんだと?」
アリアンに眉間にしわを寄せた。その様子を見て、レディ・スィートが真っ赤なルージュを引いた唇を開く。
「あらあら、そんなに眉間を寄せちゃあ、美人が台無しよ。けど、もしかしたら――二度と見られないような顔にしちゃうかもしれないけど」
「助かったぞ、レディ・スィート」
起き上がったガリーシャが、レディ・スィートの傍に駆け寄った。ボウはテラー博士の傍に行き、声を上げる。
「深眼の使徒の勢ぞろいだ! 王子は此処で死んでもらうぞ」
「貴方は口が軽いですよ、ボウ」
テラー博士がボウを目のない眼鏡で見る。ボウは恐ろし気に口を閉じた。
「深眼の使徒だと……お前たちは、何者なんだ?」
俺は対峙するグリードに声をかけた。
グリードが微笑を浮かべる。
「お喋りはいい。お前とは戦うのみだ、キィ・ディモン」
グリードが急襲してきた。突き出されたナイフを、俺は発力して躱す。しかしそこにダガーが追撃をかけてくる。俺は剣で、ダガーを防いだ。
しかしそこから、俺は真解衝気を撃ちこむ。
「衝気!」
「深気!」
ダガーを通して、グリードの気力が伝わってくる。衝気とは異なるが、相当の気力。奴は前に戦った時より、明らかに強い。
「あんたは、そいつと遊んでな」
レディ・スィートがそう言い放つと、アリアンに紫の髪を伸ばした。アリアンは左手で短剣を引き抜くと、それを迎撃する。
「くっ、斬れない!」
「気力は効かないって言ったでしょ?」
レディ・スィートは妖艶な笑みを浮かべる。その間にも、テラー博士は、レムルス王子に迫ろうとしていた。俺はグリードの猛攻の応酬で、手が離せない。ロックはボウと交戦していた。
「王子には私の魔法を味わってもらいましょう」
テラー博士が黒い手袋で王子を指さす。その指先に、黒い歪んだ球体が現れた。
「重力爆弾」
王子が魔法杖を取り出し、魔法障壁を作る。重力球が障壁にあたると、その黒い球体は障壁を吸収し始めた。
「こ…これは――魔法が吸収されている!」
「違いますね、落ちてるんですよ」
王子の驚嘆に、テラー博士はこともなげに答えた。
「王子!」
アリアンが振り返って王子の名を叫ぶ。しかしアリアンも俺も動けない。黒い球体が王子に直撃した。――かに見えた。
「電撃竜破!」
突如、飛来してきた稲妻の竜が、黒い球体を呑み込む。そこにいたのは、駆け付けてきたシイファとニャコだった。
「大丈夫ですか、王子!」
「ありがとう、シイファ」
俺はニャコの姿を確認すると、声をあげた。
「ニャコ! セレス隊長とチルル副隊長がまずい! 治癒してくれ」
「判った!」
ニャコが駆けだそうとしたところを、テラー博士が立ちふさがろうとする。
「簡単に行かせるとお思いですか?」
「行かせるわよ!」
そのテラー博士をめがけて、稲妻竜が飛来した。テラー博士は、黒手袋をかざして、魔法障壁を作り出す。直後、少し顔色を変えた。
「かなりの魔力ですね――。グリード! この相手は貴方向きだ、相手を交換すべきです」
グリードはちらとテラー博士を一瞥するが、答えない。
「チッ、また目的を見失ってるようですね」
「やあねえ、男の意地ってやつなんじゃないの?」
苛立つテラー博士に続いて、レディ・スィートが侮蔑するような笑みを浮かべて言った。




