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8 第三の男が現れたら

 セレスが倒れ込む。


「さすがの威力だ、キィ・ディモン。喉を裂くつもりだったが、体勢が崩れて腹になったようだな」


 即死の致命傷は避けた。が、このままではセレスが危ない。

 俺は念話でニャコに呼びかけた。


“ニャコ、四番隊の隊長がグリードにやられた。こっちに来てくれ”

“判った、シイちゃんとすぐ行く!”


 俺はグリードに向き合った。グリードは右手にサバイバルナイフ、左手に逆手でダガーナイフを持って構える。


「この間のようにはいかんぞ、キィ・ディモン」


 グリードが凄まじい爆発呼吸を行う。当たり一帯に爆風にも似た熱風が巻き起こった。と、グリードの頭のターバンが外れ、短髪が現れる。その額に――あの眼玉がついていた。


「グリード、貴様、その目玉は!」

「お前と戦うのに、手段は選ばん」


 グリードの一つ目のゴーグルが、白く光った。


   *


「セレス隊長!」


 チルルが駆け寄ろうとして、グリードの気力風に押される。

 その間に、頬に傷のあるボウがレムルス王子に駆け寄った。


「王子、此処は危険です。離脱しましょう」

「うむ」


 そう王子が頷いた時だった。

 俺はボウの右手の中に、ナイフが出現するのを見て取った。


 しまった。俺はセレスを助けるために王子から離れてしまっている。此処からでは、発力しても間に合わない。


 ボウがナイフを突き出した。


「王子、危ない!」


 その時、地面に落ちる金属音が響いた。

 ボウの手からナイフが落ちている。


「わふう」


 ロックが尾手に持った剣で、ボウのナイフを叩き落としていたのだった。ロックがどうだ、という顔で俺を見た。


「ロック、よくやった! 偉いぞ」

「わふ」


 ロックは油断なく、ボウに向かって身構えた。万が一の時のために、ロックを透明にしたまま王子に張り付かせていて正解だった。


「ボウ、どういう事デスか!」


 激昂したチルルが、ボウに怒鳴りつけた。

 ぎろり、とボウが眼を剥く。その首に、眼玉が現れた。


「いつから裏切ったのデス!」

「最初からだよ!」


 ボウがナイフから、電撃波を撃ち出した。


「ハンドマン、蹴散らすのデス!」


 ファントムが電撃波を弾き飛ばす。ハンドマンはボウへ近づいた。


「あらいざらい喋ってもらうのデス」


 チルルが片手をボウに向ける。ハンドマンが猛スピードでボウに襲いかかった。

 が、そのハンドマンが途中で霧消した。


「なんデス!」


 黒い、長い四本の爪がハンドマンを斬り裂いている。

 その黒い爪の持ち主は、グレーのロングコートを着た男だった。


「分霊体…ね。私のテラー・クローの前では紙切れも同然ですが」


 突如、現れた男はそう呟き、黒い長い爪を元に戻す。男は黒い手袋に包まれた指で、眼鏡を軽く触った。


 しかし、その眼鏡の奥には、あるべき場所に眼がない。眼があるべき場所も肌色で、しかしその眼鏡のレンズに挟まれて一つの目玉が中央に居座っていた。


「何者デスか?」

「テラー博士…と、呼んでいただこう。ただし、貴女はもう忘れてしまうでしょうけど」


 チルルが再びハンドマンを出現させ、テラー博士に襲い掛からせる。が、テラー博士は落ち着いたただずまいのまま、左手の爪を伸ばしてハンドマンを斬り裂く。さらに右手の爪を伸ばすと、チルルに胸に突き立てた。


「ウッ――」


 テラー博士が手を引く。と、チルルの身体から、チルルの霊体が爪によって引き出された。


「あ…あぁ……」


 チルルの霊体が小さな呻き声をあげる。テラー博士は手を振った。

 チルルの霊体の胸から顔の半分が削りとられ、チルルは倒れた。


   *


「王子、ご無事ですか!」


 その時、王子の傍に発力した速度で現れた者がいた。

 すらりとした痩身の美女、警護役のアリアン・スレイだ。王子の変装がバレないように控えててもらっていたが、駆け付けてきた。


「大丈夫だ、アリアン。ガリーシャを捕らえてくれ」

「承知!」



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