7 魔動機人が現れたら
「スタン・ショット!」
俺は群がる敵を次々と悶絶させていった。
「くそ! 長居は無用だ!」
ガリーシャを含め、他の客が逃げ出そうとする。しかしその時、逃げようとした客が、逆に室内に吹き飛ばされてきた。
その吹き飛ばしたものが、室内に現れる。
それは、乳白色の分霊体だったが、妙な人型だった。妙に腕周りの筋肉だけが発達している。
「ハンドマン! やっちゃえ、なのデス!」
ファントムの主は、チルルだった。ハンドマンと呼ばれたファントムは、群がる構成員を次々とぶっ飛ばしていく。
「くそ! こいつはダメだ!」
構成員たちは逆側に逃げようとする。しかしその途中で、突如として再び室内に吹っ飛ばされる。
「なんだ、この化物は!」
吹っ飛ばされた構成員たちが、恐怖の表情を浮かべて壁の奥を見ている。その奥から現れたのは――
「……なんだ、あれは?」
現れたのは漆黒の甲冑兵――というより、むしろ……ロボット? にすら見える代物だった。
黒い外装をまとった甲冑兵は、右手に持った剣を振って、構成員たちを吹き飛ばしている。その後ろから、ボサ髪眼鏡が現れた。
「どうだ、ディモン君! これがボクの魔動工学の結晶、魔動機人ブラッカーだ!」
上機嫌なセレス隊長の姿に、俺は驚くことすら忘れて唖然とした。
が、セレスは俺の反応などお構いなしに声をあげる。
「ブラッカー、ジェット・ナックル!」
剣を持ってない左拳が、突如発射される。これは…ロケット――
発射された拳が構成員の頬を直撃し、悶絶する。
「アハハハ! どうだい、ブラッカーの威力は!」
ボサ髪眼鏡が喜色満面で声をあげる。
「く、くそ、一斉攻撃でやっちまえ!」
構成員の魔導士たちが、一斉に魔法攻撃をぶつける。しかしその攻撃を、ブラッカーはものともしない。
「やってくれたね! ブラッカー、スタビライザー・スタンバイ!」
ブラッカーの背中に折りたたまれていた二本の棒が、床に向かって降りていき地面に着く。と同時に、背中にはクジャクが羽を広げたように、円錐を描いてパネルが広がった。
「セレス隊長! やりすぎデス!」
チルルが声をあげる。
なに? チルルがやりすぎだと言うくらいの攻撃なのか?
「ブラッカー、スマッシャー・ビーム!」
セレスの掛け声で、ブラッカーの金色に光る眼が光る。と、胸の中央に埋まっている金色の結晶から、凄まじい威力の光線が発射された。光線は構成員を吹っ飛ばした後、壁を破壊した。
壊された壁から、青い空が見える。
「あいつ……絶対、ヤバい奴だろ…」
俺の感覚では、セレスティーナ・ノワールは逮捕する側より、逮捕される側の人間に近い。
その場にいた者たちが屋外へ逃げる。俺たちもそれを追って、外へ移動した。
「魔動機人使わずに、普通に魔法使った方が早い気がするんデスけどね~」
いつの間にか傍にいたチルルが、嬉しそうにそう洩らした。
その瞬間だった。
突如現れた影が、魔動機人の背後から傍をすり抜ける。
その男が微かにこちらを見た。
「グリード!」
一つ目のゴーグルの下の口が薄い笑みを浮かべたかと思った瞬間、ブラッカーの胴体に斜めの線が走り、上半身がずれて地面に落ちた。
「ブラッカー!」
セレスが叫ぶ。グリードは黒色の巨大なサバイバルナイフを手に、セレスに向かった。
「セレス、逃げろ!」
俺は叫びながら、発力して駆け寄る。セレスは指輪をした手を向け、グリードに電撃を放つ。が、グリードはその魔法を掌で吸収している。
そいつは魔法を吸収する――と、声をあげるより速く、俺はグリードに向かった。グリードのナイフがセレスの喉へと向かう。俺はそのナイフをアースティアで打った。
奴の気力と俺の真解衝気が衝突して、閃光を放つ。
「う……」
グリードが駆け抜けた後に、セレスが小さく呻き声をあげた。
横腹が斬られ、白衣が真っ赤に染まりだしていた。
右手のナイフは落としたはずだが。見ると、グリードは左手に、両刃の短剣を逆手に握っていた。ダガーナイフというやつだ。
「セレス!」




