6 新型弾を使ったら
「100万!」
「お~っと、いきなり100万の声! これは相当な金額だ、他にありませんか?」
「120万!」
「150万!」
次々と値が上がっていく。奴隷の相場は少女一人で5万から50万くらいだと聞いている。ちょっと異常な値段じゃないのか?
「200万!」
「300万!」
「さあ、これは史上最高額を上回る勢いだ! 他にありませんか?」
「500万」
一人の仮面がそう声をあげる。会場がさすがにざわついた。
「お~っと、これは最高額の更新だ! 他にありませんか?」
会場が静まり返る。司会の男が、上機嫌で声をあげた。
「28番、500万で落札――」
「1000万!」
司会の声が終わる前に、アイマスクをした男が声をあげた。
会場が一斉にその男に注目した。いかにも高級な身なりをしていて、男はさらに声をあげた。
「その少女は、是非、いただきたい」
アイマスクの男は立ち上がった。
「王族の血を引いてる者とあれば、ただの奴隷としては使わない。他にいかようにも利用のしようがある。なので大切に扱わせてもらうつもりです。いかがですかな、ケリー氏?」
アイマスクの男が、俺に向かってそう言った。返事に一瞬迷っていると、隣でレミーの声があがった。
「そんなに、わたしが欲しいの?」
驚いて隣を見ると、レミーが男を見つめている。男が口元に笑みを浮かべて、それに答えた。
「そうだよ。君が欲しいんだ。その立ち振る舞い、気品。確かに君は王家の血を引いてる者だ。大事にしてあげるから、私の処へ来なさい」
「……下品な奴め」
レミーがそう声を洩らした。アイマスクが気色ばる。
「なんだと?」
「金で少女を買うのが下品だと言ったのだ、ガリーシャ」
「な――何故、私がガリーシャだと――」
「余の顔を見忘れたか?」
レミーはそう言うと、かつらを脱いで放り投げた。アイマスクの男が、驚嘆をあげる。
「そ、そのお姿は――レムスル王子!」
“チルル、突入だ”
俺は念話でチルルに合図した。
“了解。突入するデス”
チルルの返事の間にも、男は動揺した姿を晒していた。
「王子、何故、このような場所に?」
「上級貴族であり、内政にも深く関わっているガリーシャが、奴隷売買に関わってるという話を聞いて、自らの眼で確かめに来たのだ。王家の娘を買った後で婚姻関係を結び、自らも王族の一員などと自称して南方へ出張るつもりだったか、ガリーシャ?」
「そ、そんな事は! 滅相もございま――」
平伏していたガリーシャだが、突如、態度を翻した。
「こ、こいつは王子を騙るふとどき者だ! 捕まえて、本当に奴隷にしてやる! 捉えろ!」
ブラック・ボアの構成員が周囲から押し寄せてくる。俺は自分と王子のリストレイナーを解除すると、懐からM360を抜いた。
「衝撃射」
右40度、左67度、右斜め後方32度、こちらに向かって来ようとした敵を連射した。
最初の敵が魔法障壁を作る。が、それを通過して電撃が放射され、昏倒する。二人目の敵は気力を高めて防御しようとするが、やはり悶絶。最後の敵はサル型のファントムを出して防御しようとしたが、弾丸はサルに穴を開けた後、その後ろにいる術士に電撃弾を喰らわせた。三人が一瞬で倒れる。
「な――なんだ! 何故、倒れされている!」
ガリーシャが悲鳴をあげる。
これは俺がシイファに頼んで作ってもらった第四の弾丸だ。
これはまず力場魔法を細くストローのように撃ち出して、最初の敵の防御層に「穴」を開ける。その穴が空いた処に、次に撃ち出した電撃魔法が相手を撃つという仕組みだ。
*
このアイデアをシイファに話した時、シイファは言った。
「これって、ほぼ同時に二つの魔法を発動させるってことよね? 物凄く負担が大きいけど」
「負担が大きくても、確実に相手を昏倒できる事が重要だ。できるか?」
「できるかと言われれば……まあ、やりますけど」
シイファは苦笑しながら言った。出来は俺の予想以上だ。さすがシイファ、やはり頼りになる。




