5 オークションに参加したら
「この姿の時は敬語も禁止! だって、奴隷に敬語なんてヘンでしょ?」
「奴隷? …まさか奴隷役で一緒に潜入するつもりですか?」
「あたりぃ!」
レミーが顔いっぱいの笑みを見せる。
「冗談じゃない! 王子を危険な目に合わせられるわけないでしょう!」
「こっちも冗談じゃないんだよ?」
レミーが、すっと声のトーンを落とした。
「奴隷として扱われる事の悲惨さを、少しでも理解したいんだ。そして、それに平気で携わってる連中を、この目できちんと確認したい。――だから、君が出品者で出るという作戦を命じたんだ」
「王――レミーの作戦なのか?」
レミーは、にっこりと微笑んだ。
「だから奴隷役の時は、こんな格好ですよって見せに来たんだよ。いきなりだと、ビックリするでしょ?」
なんて王子だ。賢明の度が過ぎている。これでは名君というより、暴れん坊だ。
「まったく……」
俺は息をついた。だが、そんな無茶な君主は嫌いじゃない。
*
「頬に『メ』の字の傷がある奴が、うちの内偵だから」
セレスにそう言われて接近を試みると、『メ』の字の傷の男が俺に近寄って来た。頬の傷はともかく、がっしりとした体格とふてぶてしい面構えは、悪党そのものだ。こいつは組対でいい警察になれる、と内心思った。
「お待ちしてましたぜ、ケリーの旦那」
俺はケリーという南方から来た豪商の役だ。傍には鉄の首輪を嵌め、鎖につないだレミーがいる。傷の男はボウという名という事になっていた。
ボウに連れられて倉庫に入ると、中は豪勢な作りになっていた。見かけを完全に欺く造りだ。そこでブラック・ボアの組織員が近寄って来た。
「警備上の安全のために、リストレイナーを着けてもらいます」
そう言うと、レミーの首に鉄の首輪の上からリストレイナーを装着する。だけじゃなく、俺にもつけようとした。
「私もか?」
「決まりですから」
それだけを無表情に答えた男が、俺の首にリストレイナーを突かた。まあ、いつでも外せるから、大した問題じゃないが。
男はさらにレミーの番号札をつけた。28番だ。
「奴隷は、こちらで控えてもらいます」
「私の奴隷は一級品だ。事故があっては困る。一緒に待たせてもらおう」
「そういう事なら、一緒においでください」
そういうと男は、俺たちを案内する。ボウとはそこで別れた。
連れられて行った部屋は、一見普通の待合室だった。しかしそこにいるのは、大半が年端もいかない少女たちだ。全員がリストレイナーを付けられ、鉄の首輪を嵌められていた。
泣いてる少女もいれば、呆然としてるだけの娘もいる。全員、これから自分が売られることに怯えているようだった。
「ひどい……」
レミーが呟く。だが、俺はレミーの耳に口を近づけて囁いた。
「盗聴されてる可能性がある。あまり喋らない方がいい」
レミーが驚きの顔で俺を見たが、それ以降は黙った。
やがて部屋に男がやってきた。
「1番、来い」
呼ばれた少女が、怯えた目つきで男を見る。動かない少女に男は近寄ると、髪を掴んでそのまま引きずろうとした。
「痛い! やめて!」
叫んだ少女の頬を、男が片手で掴む。口が塞がれて、何も言えず、涙だけが無言で流れた。
「自分の立場を判ってんのか! 死にたくなかったら、おとなしくしろ!」
男はドスのきいた声で少女を脅しつけた。
怒りに任せて男を制圧したくなるが、堪える。
一人目の少女が連れていかれると、順次、部屋の少女が呼び出されていった。
「次、28番だ」
俺はレミーを連れると、男の案内に従ってついていった。
薄暗い場所に入ったかと思うと、幕を抜けて向う側に行くように指示される。その幕を抜けた先は、ステージの上だった。
「――さあ、次は28番! 今回の眼玉商品です! なんとこの少女は訳あって身を落としたトリアム王家に連なる一族の娘! 生まれも育ちも高級品、まだ12歳の少女、いかがでしょうか!」
司会の声が響き、レミーを前に出すとそこにライトがあてられた。
おお……と、会場から声が洩れる。会場にいる連中は、全員、アイマスクや仮面を身に着けていた。
「この商品に限っては、出品者の意向でこれぞ、という相手に売りたいとのこと! ここにいるケリー氏です!」




