3 ツインテールの幼女が出迎えたら
「あ、パンケーキ! いただいてもいいですかあ?」
どうぞ、と言う前に少女はシイファの席に座り、ナイフとフォークでパンケーキを食べだした。その姿が――妙に優雅だ。
「あーっ!」
突然、シイファが声をあげる。ニャコがそれを見て口を開く。
「あ、シイちゃんの分を食べたからだよね。大丈夫だよお、ニャコの分を分けてあげるよお」
シイファは首をブンブンと振った。どうも様子がおかしい。
「どうした、シイファ?」
「この子……いえ、この方は――」
かた?
「レムルス王子!」
シイファが指さすと、少女はパンケーキを食べながら優雅に微笑んだ。
「正解」
「えーっ!」
ニャコが声をあげる。俺も内心、驚愕した。シイファが口を開く。
「ど、どうしたんですか、レムルス王子!」
「う~ん、やっぱり宮廷の料理って、毒見の後だから冷めたものが多いのよね。たまにはこんな、あったかくて家庭的な料理を食べたいじゃない?」
「だからって、女の子に変装して急に来ます? お付きの人は?」
「えへ。こっそり来ちゃった」
にっこり。――じゃ、ないだろ。が、ここは冷静を装う。
「……王子、紅茶はいかがですか?」
俺はカップを取り出しながら、王子に言った。
「この姿でいる時はあ、レミーって呼んで」
めんどくさいな、おい。
「ねえレミー、杏子ジャムも美味しいんだよ。ちょっと酸っぱいけど。これはねえ、いちじく」
ニャコは適応してんのか。何事もなかったかのように、パンケーキを頬張っている。…大物すぎるだろ。
俺はシイファにパンケーキを分けると、自分も席で珈琲を飲み始めた。俺は王子――じゃない、レミーに話しかけた。
「で、俺のパンケーキを食いに来たわけじゃないですよね?」
「え、これキィが作ったの? キィって見かけはワイルドなのに、仕事は丁寧だね」
レミーが微笑みながら、紅茶を飲んだ。そして俺を見る。
「三日後のオークションに、わたしを連れてってほしいの」
そう来たか、と俺は思った。
*
話は昨日に戻る。
シイファにからんだ売人たちは、麻薬密売や人身売買などを生業にしてる『ブラック・ボア』という犯罪組織の下っ端だという事が判った。しかし連中は下っ端過ぎて、組織のアジトやボスの事などまったく知らない。
ただし俺が口を割らせると、連中からは四日後にオークションが行われるという事が判った。それで奴隷集めに奔走してたらしい。ネリもそこで引っかかったのだ。
ヴォルガが俺に言った。
「この人身売買組織は、実は四番隊が追ってた連中だったらしい」
「そうなのか」
一応、捜査はしてたわけか。
「そのオークションには、うちと四番隊の合同で踏み込むことになりそうだ。打ち合わせに行かなきゃいかんが……」
ヴォルガが渋い顔をしている。
「どうした?」
「隊長のセルスティーナ・ノワールが変わった女でな。ノワール家は『黒の覇賢』と呼ばれる九賢候の家柄なんだが……。あそこは妙なところで、どうもオレは苦手なんだ」
ヴォルガは苦笑した。
*
四番隊詰所は――役所というより、普通の屋敷だった。というか、少し可愛らしい感じの家だ。
そこへ着くと、ブラウンの髪を左右に結んだ少女が出迎えた。
「あ、ヴォルガ隊長、いらっしゃいませデス。そちらがキィ・ディモンさんデスね?」
「そうだが」
あどけなさの残る感じの少女はにっこりと微笑んだ。
「四番隊、副隊長のチルル・トロニカ――デス」
…この子供にしか見えない少女が副隊長? これに比べたら、ニャコの方がまだしっかりしてそうに見えるくらいだ。
「隊長がお待ちデス。どうぞ」
チルル副隊長は先に立って奥へ進む。通された部屋は、花柄の壁紙で覆われ、柔らかいソファがある――いわば少女の部屋だった。しかし誰もいない。
「あれ? 隊長、また逃げましたね。仕方のない人デス!」
チルルは怒って部屋を出ると、別の部屋へ移動する。
俺はヴォルガを見たが、ヴォルガは苦笑するばかりだ。俺はチルルの後についてみた。




