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2 ふわふわ少女がやってきたら

 ちょっと、俺が想像してたより潜在能力が高かったが。やはり、シイファは怒らせないようにしようと思った。

 俺はシイファに眼を向けた。


「頑張ったな、シイファ」


 シイファが驚きの表情から、笑顔に変わる。


「うん」

「帰るか。メシ作らないといけないしな」

「うん!」


 シイファが近寄って来る。シイファは振り向いて一礼すると、俺の方に顔を向けた。俺たちは連れ立って、踵を返す。その背中に、ウィンガムが声をかけた。


「ディモン君!」


 俺は顔だけ振り返る。


「シイファを……よろしく頼みます」


 ウィンガムは、深々と頭を下げた。俺はそれに、言葉を返す。


「あいにくと、シイファに色々頼むのは俺の方でね。俺はせいぜい、風呂を炊いてメシを作るくらいさ」


 俺はそう言うと、シイファと連れ立ってスターチ家を後にした。

 と、シイファがふらりとよろける。


「おっと」


 俺はそのシイファの身体を支えた。


「魔力を全放出した反動だろう。無理もないさ」


 シイファが俺の腕に、自分の腕を絡めてくる。シイファは上目遣いに俺を見た。


「帰るまででいいから……こうしてていい?」

「構わないさ」


 俺は答えた。シイファは少し、恥ずかしそうに微笑んだ。


   *


「ぱっんけーき♪ パンケーキ♪」


 ニャコがナイフとフォークを持って、空の皿を前に歌っている。

 俺は皆が休みということもあって、朝からパンケーキを焼いていた。ニャコはそれでご機嫌なのだ。


 こいつは難しくはないが、火加減が勝負だ。焼きが甘いと綺麗すぎるし、焼き過ぎると苦みが出る。黄色い生地にうっすらと淡い茶色の焼き目がつく絶妙のタイミングでひっくり返し、焼き上げなければいけない。


「ほれ」


 俺はフライパンを持ってテーブルに向かうと、ニャコの皿にパンケーキを移した。うむ、いい焼き上がりだ。


 ふと見ると、ニャコの前にはずらりと瓶が並んでいる。バターはもちろんだが、苺ジャム、林檎ジャム、オレンジジャム、ブルーベリージャム、杏子ジャムにいちじくジャムなんてのもある。


「お前、全種類食べるつもりか?」

「当然!」


 ニャコが嬉しそうに、にかっと笑う。

 それを見たシイファが微かに笑みをみせた。シイファはスターチ家を出て、王子の教育係の件を父親に一任したらしい。どうなるかは、まだ王子側からの裁定が降りてない。


 パンケーキはスピードが命。俺は次々とパンケーキを焼いた。


「わふ」


 ロックが椅子の上に座り、尾手にフォークを持っている。


「……なんだ、お前。パンケーキが欲しいのか?」

「わふう」


 尾手の持った手を、ぐっ突き出す。「オレもほしい、と」


 やれやれ。ようやく自分の分まで焼いて生地を使い切ると、席に着いた。やっと俺も朝食にありつける。

 俺はバターだけ塗ったパンケーキを口にした。充分、甘い。


「シイファ、少し頼みがあるんだがな」

「なに?」

「魔銃に新しい魔法を入れてほしいんだが」

「どんなの?」


 この前の集団戦で、俺は遠くの敵を狙い撃ちにできない事に気付いた。そういう時用の新しい魔法を思いついたのだ。


「二種類の魔法を組み合わせる、特殊な弾丸なんだが――」


 俺がそう話しかけた時、器用にフォークでパンケーキを食べていたロックが顔をあげた。


「わふ!」


 すると、礼拝堂の方から、すみませーん、と女の声がする。

 俺たちは何事かと、ぞろぞろと出ていった。


「すみませ~ん、ここシイファ・スターチさんのお住まいですよね?」


 白いレースで、フリルがあちこちについたふわふわの衣装を身にまとった少女が立っている。金髪を巻き髪にした少女は、衣装に負けず劣らず本人も可愛い顔立ちだ。


「……そうですけど?」


 シイファが怪訝そうな顔で、少女を見た。


「ちょっと~、シイファさんとその仲間さんに、お願いがあるんです~。特に――キィ・ディモンさん」


 そう言うと少女は、俺を見た。こいつ――俺を知っている。


「は、ともかくとして、いい匂い~」


 少女はふわふわと歩いて、リビングの方へ入っていった。


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