第十話 王子が暴れん坊だったら 1、令嬢が本気に覚醒したら
「思い上がるなよ、下賤の血が! お前の力なんざ、たかが知れたものだ! 上級魔導士の資格だって、お前がスターチ家の人間だからお情けでもらったものだ!」
カリガムが憤りを露わにして怒鳴る。
それに対し、シイファは静かにカリガムを睨みつけた。
「そう仰るのなら、あたしと勝負してください」
シイファの言葉に、カリガムは顔色を変えた。
「……勝負だと?」
「そうです。あたしの力なんか、たかが知れてるのでしょう? あたしと勝負すること――まさか恐がったりしませんよね?」
カリガムの顔色が、真っ赤になるのが見て取れた。
「つけあがるなよ、下賤の血が! いいだろう、貴族の魔力を味合わせてやる! 後悔するなよっ!」
シイファは、ただ静かにカリガムを見つめていた。
*
庭に出た二人が、睨みあう。
ウィンガムが、シイファに言った。
「シイファ……お前の気の済むようにしなさい。救護の治癒術士も呼んである」
「ありがとうございます、お父様」
シイファは軽く礼をした。そこへカリガムが声をあげる。
「一瞬で即死したら、どんな治癒術士でも治しようがないがな! 言っとくが、ぼくは手加減はしない。貴族の――本物の上級魔導士の力を思い知るがいい」
そう言ってカリガムは、手の中に魔法杖を出す。
シイファも手の中に、魔法杖を出した。俺は声をかけた。
「始め!」
「喰らえ! 激烈爆炎砲!」
凄まじい業火の大砲がシイファを襲う。しかしシイファは、自身の背後に電撃の竜を生み出していた。
「電撃竜破!」
電撃の竜が業火を迎え撃つ。しかし業火の勢いは凄まじい。
「ハッ! そんなもんかシイファ! やっぱりお前は、所詮、下賤の血だよ! ぼくの炎に――おとなしく焼かれろ!」
業火がさらに威力を増す。膨れ上がった炎が、電撃竜を押し戻し、シイファの身体を呑み込もうとしている。
「ク……くぅ――」
シイファが苦しそうに顔を歪める。このままでは、シイファが炎に焼かれるのは明らかだった。
俺は声をあげた。
「シイファ、躊躇するな!」
薄目を開けて、シイファが俺を見る。
「兄を傷つけるのを恐れてブレーキをかけるな! お前の最大の力を発揮しろ! 最大の力を使っても、相手は俺がなんとかする! シイファ――振りきれっ!」
俺が上げた声に、カリガムが不快そうな顔を見せた。
「何を言ってる、この下賤が! こいつが力を加減してるだと? 思い違いもいい加減にしろ! 貴族を愚弄した罰を、こいつを焼いた後で――お前にも味合わせてやる!」
「キィを…焼くですって……?」
シイファが眼を見開く。
「――あんたこそ、思い違いもいい加減にしなさいっ!」
シイファが声を上げた瞬間、凄まじい魔力上昇がシイファを包んだ。シイファの全身から稲妻がほとばしり、辺りの空中に放出する。
それは、六匹の竜の姿へと変わった。
「電撃七星竜破!(セブンス・ドラゴニック・ボルト)」
新たに現れた六匹の電撃竜が、カリガムに一斉に襲い掛かった。
「なに…? こんな威力の――魔法が…」
カリガムが驚愕に眼を見開く。もはやカリガムの炎は完全に押し戻され、カリガム本体を守るものは何もない。
「シイファ、止めなさい!」
ウィンガムが声をあげる。しかしシイファは止まらなかった。
七匹の電撃竜がカリガムを襲い、爆発とともに閃光がほとばしる。辺り一帯が光りに包まれた。
やがて静けさが戻る。爆炎の消えた後には、誰もいない。
「……お兄様?」
シイファが驚きに眼を見開くが、やがて俺を見つけた。
俺は瞬時に気力と力場魔法を同時発動し、カリガムに電撃竜が直撃する前に、カリガムの身体を抱えて離脱させたのだった。
俺は地面にへたり込むカリガムを置いて、立ち上がった。
「どうだ、シイファの魔法は?」
俺の問いに、カリガムは唇と身体を震わせていた。
「う……嘘だ…下賤の血に――こんな魔法が…」
「これはシイファが、血だとか家とか関係なく、努力して身につけた力だ。これがシイファの――本当の力だ」




