9 俺の魔能が発動したら
「――食事はどうなってた?」
「え? 何?」
俺はニャコに言った。
「神父長に出された食事だ。部屋にはなかったのか?」
「え……と…なかった、と思う」
俺はそこまで話を聞いて、ふと疑問に思った。
「お前たちは、俺の現世――つまり異世界を見てたわけだろう? それはどうしてだ?」
「神父長様の残留幽子をたどったら、異世界だったんだよ」
ニャコも驚いたように言う。
「霊鏡に霊力を流すと、前に見ていた対象が自動的に見れるようになってる。それで聖堂に逃げてきて、殺された神父長さまが何を見ていたのか調べようと思ったら――」
「俺が写ってたわけか」
俺の言葉に、ニャコが頷く。
「神父長様はキィか――キィの追ってた奴を見てたんだと思う」
「黒須を?」
何故だ? 何故、異世界の人間が、連続殺人犯を追っていた? 殺された神父長は、何を知っていた?
俺はふと、自分が殺された瞬間を想い出した。
あの胸に空いた穴。あれは、元の世界の凶器じゃなく、この世界の魔法だとかの類でやられたものだったのか?
「――キィ。キィってば!」
俺はかけられたニャコの声に、我に返った。
「どうしたの、キィってば。黙り込んで」
神父長は何かを捜査していた。そしてそれは俺が殺された原因にも関わっている。……だが、此処にいても、俺は捜査をすることができない。
此処を出なければ。今すぐ。
そう強く思った瞬間、俺の右手が熱くなった。
「な――なんだ?」
俺の右手が光っている。俺は自分の右掌を見つめた。
光の中から、何かが形づくられていく。それはやがて光るのを止めて、手の中に納まった。
「……鍵?」
それは一本の鍵だった。なんだ、これは? どういう現象なんだ?
「キィ、なにをしたの?」
「判らん。此処から出たいと考えたら、手から生まれた」
「この檻の鍵かもしれないわ!」
シイファの声を聴き、俺は鍵を檻の鍵穴に差し込んだ。ピッタリとはまり、檻の鍵はやすやすと開いた。
「開いた! キィ、凄い!」
俺は檻から出ると、ニャコとシイファの檻の鍵も開いてやった。二人が檻から出て、驚いた顔をしている。
「これは……一体、なんだ?」
「魔能――いえ、異能ね」
「なんだそれは? 魔法なのか?」
シイファは首を振った。
「いいえ、魔法は法式に基づいて物理現象を起こすもの。けど、魔人が持つマギアは、法式など無関係に、直接、現象を起こすことができるの。魔人以外はほとんどマギアを持たないけど、転生者はそれに似た能力を持っていると聞いたことがある。それがディギア」
「つまり、俺の特殊能力は鍵を生み出す力と言う事か?」
「多分」
俺はニャコの顔に右手を差し出した。え…とニャコが顔を赤らめる。俺は構わず、右手に別の鍵を生み出した。
俺はニャコの首につけられてるリストレイナーの鍵穴に差し込む。次の瞬間、ニャコの首から首錠が外れて床に落ちた。
「嘘……凄い」
驚いてるシイファの首錠も外し、自分の首錠も外した。
「キィ、ありがとう!」
ニャコが声をあげて、いきなり抱きついてくる。
「おい、あまり大声を出すな。外に見張りがいるかもしれないだろ」
「そ、そっか……。あ、そこにニャコたちの装備が置いてあるよ」
ニャコは檻の傍にあったテーブルの上を指さした。テーブルの上には幾つかの指輪やペンダント、それに俺の警棒と――壊れた拳銃があった。どうやらヴォルガとの戦闘で、壊れたようだった。
「……まあ、弾を撃ち切ったから、もう使い道はないがな」
しかし、俺の拳銃だ。俺は、刑事の誇りを失った気がした。
「大事なものなんでしょ? 直そうか」
不意にシイファが俺の傍に来る。シイファは左手をかざすと、その掌を光らせた。壊れた拳銃が、見事に直っていく。
「……なんだそれは?」
「修復魔法よ。物体の時間軸を遡行させるの。生物には使えないけどね。生物は自分の時間軸を持ってるから」
なんて便利なんだ、魔法。だが、拳銃が直ったことを、俺は素直に喜んだ。
「ありがとう、シイファ」
俺が礼を言うと、シイファは少し目を見開いて、顔を赤らめた。




