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9 人買いを逮捕したら

 アランの操る馬車に乗り、帰路につく。

 事件が起きて、教会に住むようになったのは、シイファにとっていい機会だったのだろう。

 馬車に揺られていると、ふと往来から声がした。


「――この子は嫌だと言ってるじゃない! あなたたち、下がりなさい!」


 シイファの声だ。


「アラン」

「はい、お嬢様です」


 アランが馬車を止めると、俺は馬車から飛び降りた。

 見ると、往来でシイファが屈強そうな男三人に食って掛かっている。シイファの後ろには、まだ幼い少女がいた。


 男の一人が、困ったような顔で口を開いた。


「何処のお嬢さんか知りませんがね、そいつは正式に親から譲られた、俺たちの子供ですぜ。いくら貴族たって、その契約に口出しはできませんぜ」

「奴隷の売買は、国で禁止されてるわ。あなたたちは法律違反よ」


 シイファの言葉に、男はニッと笑った。


「ですから、奴隷なんかじゃありやせんや。養子ですよ。実の親が、その子を養子としてこちらに預けたんで。何も、法律に抵触してませんや」


 男がにやにやと笑いを浮かべる。後ろの二人の男たちも、口にいやらしい笑みを浮かべていた。


「そんな――」

「さ、こっちへ来い!」


 男の一人がシイファの横をすり抜け、少女の腕を掴む。


「痛い! いや! 行きたくない!」


 少女が声をあげた。


「おい」


 俺は、腕を掴んでいる男に、声をかけた。


「その腕を放せ」

「誰だ、てめえは? 余計な口出しすんじゃねえ」

「婦女暴行の現行犯で、お前を逮捕する」


 俺は腕を掴んでる男の胸を、衝気で打った。一撃で昏倒する。


「お、おい! どうしたんだ!」

「てめえ! なにしやがんだ!」


 もう一人が殴りかかろうとするのを、俺は逆に踏み込んで男の顔面を掴んだ。衝気。

 ものも言わずに、男が崩れ落ちる。


「暴行未遂、および公務執行妨害だ、逮捕する」

「て……てめえ、何者だ…?」


 冷や汗をかきながら、シイファと話していた男が俺に訊いた。


「キィ・ディモン。俺は刑事だ。見たところ、お前たちは法律の網をかいくぐって人買いをする組織犯罪の組員だな。詳しい話を聞かせてもらうぞ」

「キィ……」


 シイファが、改めて俺の方を見た。しかし男は気を取り直したように、表情を改めて俺に言った。


「なんの話かしらねえが、その子は正式に親から譲られたもんだ。俺たちの子ですぜ。それに口出す権利は、誰にもありませんや」


 俺は少女の方を向いた。


「お前、歳は幾つだ?」


 少女はシイファの裾にしがみつきながら、口を開く。


「……10歳」

「そうか。もう充分、自分の意志が発言できる歳だ。お前は、この男たちの子供になりたいのか?」


 少女は懸命に首を振る。俺は男に向き直った。


「本人の意志に背いてやった養子縁組など認められない。契約は破棄だ」

「な、なんだと! ……わ、わかったよ。そいつはもういい」


 男は踵を返して、去る素振りを見せた。が、俺は背中を見せた男に言った。


「誰が帰っていいと言った? お前たちは養子縁組を利用して子供を国外に連れ去り、奴隷として売っている仲買人だな? 詳しく話を聞かせてもらうぞ」


 突如、男は振り向きざまにナイフを突き出した。

 俺は、そのナイフを掌で止める。


「な……に…」


 男の顔に驚きが浮かんだ。衝気を使えば、体面に刃物を通さないことも可能だ。


「殺人未遂だな。重罪だ」


 俺はナイフを背から掴むと、そこから衝気を送ってみた。


「がっ」


 男は一言呻くと、その場に倒れ込んだ。

 俺は倒れた三人にディストレイナーを嵌めて無力化すると、近くにいたアランに声をかけた。


「悪いんだが、ヴォルガの処へこいつらを運んで、留置するように言ってもらえないか?」

「かしこまりました」


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