表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/143

6 令嬢の家に招待されたら

 つまり、ニャコのいたレネ村を襲ったのは、裏ギルド――デスコルピオに所属していた者たち……という事が判った。


 しかしその場にいたゼブリアット枢機卿ですら、レネ村の事件はガロリア帝国の仕業と信じて疑ってなかった。当時、レネ村虐殺事件と、裏ギルドを関連付けるような話、手掛かりは一切残ってない。唯一の生き証人であるニャコが、まず二歳の子供でしかなかったから、まったく情報も得ることができなかったのだ。


 翌朝、食卓で俺は二人にその事を話した。


「――恐らくだが、裏ギルドはその後、生存者がいる事を知り、証拠隠滅を考えたに違いない」


 俺はバタートーストを食べながら、そう言った。


「証拠隠滅って?」

「バカね、あんたを殺すってことよ」

「え~っ!」


 シイファの言葉に、ニャコが驚きの声をあげる。シイファはエッグスタンドに入れた半熟ゆで卵を、スプーンですくいながら言った。


「けど、実際にはニャコは殺されなかった。どうしてかしら?」

「ニャコが保護されたとき、ほとんど感情反応がなく喋ることもなかったと言ってただろう。それが幸いしたんだろうな。口封じの必要がない、と判断された」


 俺がそう言うと、ニャコが厚切りのハムステーキを頬張りながら真顔で訊ねる。


「え、じゃあニャコ、狙われるの?」

「いや、恐らく今さらだろう。裏ギルドはこの間、拠点を叩いたばかりだし、しかもお前を刺した火傷痕の男も逮捕者の中にはいなかった。裏ギルドもメンバーを次々と変えてるだろうから、当時の人間が残ってるかどうか判らない。レネ村事件の実行犯は、もうこの国にはいないかもしれない」

「ふゅ~、たふかったあ」


 ニャコ口をモゴモゴさせながら、そう言った。

 心に閉じ込められた時はああ言ったが――呑気すぎるかもしれん。


「しかし、裏ギルドが実行犯だとしても、それを依頼した依頼者がいるはずだ。それはガロリア帝国かもしれないし、あるいはまったく別の存在かもしれない。それは何の手がかりもないままだ。だがいずれ――真相を明らかにしよう。いいな、ニャコ」

「うん。キィに任せるよ!」


 お腹が満たされて、機嫌がよくなったニャコは笑みを浮かべた。


 俺は頷いて見せる。それをじっと見ていたシイファが、カフェ・オ・レを口にしながら俺に言った。


「――それはそうとキィ、ちょっと頼みがあるんだけど」

「なんだ?」

「今日、一緒に来てほしいんだ」


「構わんが、何処へだ?」

「ちょっと(うち)へ」


 シイファはそう言うと、目を伏せてカフェ・オ・レを呑んだ。


   *


 大きな屋敷だ。一言で言うと、シイファの実家、スターチ家の屋敷は巨大だった。

 執事のアランの迎えで連れてこられたが、門扉から邸までが馬車でもまだ時間がかかる。ドライデンの屋敷も大きかったが、九賢候の地位というのは凄いものだと再認識した。


「――で、俺は一体、何故呼び出されたんだ?」

「お父様が、キィに会ってみたいって」


 九賢候の一人、『青の智賢』スターチ候が、か。どういう要件だ。


「俺に会って、どうしようというんだ?」

「さあ」


 シイファは窓の外を見ている。

 俺はシイファの案内ででかい屋敷を通り抜け、奥の客間へとたどり着いた。長テーブルには白いシーツがかけられて、机上には花が置いてある。


「やあ、よく来てくれた。私が、ウィンガム・スターチだ」


 スターチ候は、俺を部屋に招き入れると、まず握手を求めた。

 思いのほか若い印象だ。整った顔だちで、少しシイファに似ているかもしれない。どこか知的で、繊細そうな雰囲気も少し似ている。


 何故、握手? と思わないでもなかったが、とりあえず応える。


「カリガムとは既に会ったことがあると聞いてるが――」


 手を振ると、既に一席にシイファの兄、カリガムが足を座っていた。こっちは仏頂面だ。


「あの時の他国人が……妹に取り入ったのか?」

「そんな言い方は止めてください」


 カリガムの言葉に、シイファが返した。フン、とカリガムはそっぽを向いた。

 促されるまま席につこうとすると、メイドが椅子を引く。俺の隣に、シイファも座った。


「それで……今日はどういう要件で?」

「いや、最近、宮廷では君の話でもちきりでねえ。噂の人物に一度会いたいと思い、シイファに無理を言ったんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ