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第九話 刑事は嘘がつけなかったら  1 警護隊の連中と話をしたら

 ガスパオ候殺害事件および、黄の明賢ドライデンの事件は一応の終幕を迎えた。俺はその顛末を総隊長ロイナートに報告にいった。


「お前は、自分がやった事がどれだけの意味を持っているか判っているのか、ディモン?」


 ロイナートは相変わらずの厳しい表情で俺に言った。

 俺は答えてやった。


「判ってるつもりだから、事前に報告しなかったんだが?」


 ロイナートが俺を睨む。そう、無暗に人を睨むなよ。


「報告していたら、ドライデンは王都警護隊が正式に逮捕せざるを得ないだろう。王都警護隊が九賢候に踏み込む……それは王家が、他の賢候を滅亡させることに近い。王家に対して他の家が危機感を持てば、王家に対する叛意が広がる可能性がある。それは王家派と反王家派の内戦になりかねない。そうなれば……その混乱に乗じて他国で攻めてくる――そう思ったんだが」


 ロイナートは俺の言葉を聞くと、ため息をついた。


「……そこまで判っているなら、何故、ドライデン家を制圧した?」

「少女たちが監禁されてると知ったんでな。緊急事態だった」

「それは王家――いや、王国の危機と引き換えにするほどの事か?」


 ロイナートの言葉に、俺は即答する。


「無論だ。王家が滅んでも、民衆は生きていく。――俺は刑事だ。俺は人々を助け、犯罪者を逮捕する。それが俺の使命だ」


 ロイナートは俺の言葉を聞くと、眼の殺気を強めて俺を睨んだ。 

 俺は睨み返す。と、ロイナートは目を伏せて、口を開いた。


「もういい。後で報告書を出しておけ」

「いや、あんたにはまだ話がある」


「……なんだ?」

「ドライデンが死んだのは一角虎の暴走のせいと周囲には触れてあるが、実は違う」


 ロイナートが眼を光らせた。


「どういう事だ?」


 俺はこれまでの経緯――花屋のダグ、双子のメイド、鍛冶屋のテオに現れた眼玉と、それを回収しに現れたグリード、そしてレディ・スィートと名乗った女の事を話した。


「――何者なんだ、そいつらは?」

「俺が知りたいのもそこだ。心当たりはないか?」

「いや……」


 ロイナートは渋い顔をした。こいつにも知らない事があるらしい。


「正体不明の犯罪組織が、裏で動いている。俺はそれを探る」

「……判った。手掛かりがあったら、お前に伝えよう」


 言葉とは裏腹の厳しい顔のロイナートに、俺は思わず苦笑した。


   *


 総隊長の詰所を出ようとした時、向いからガイスラッドとアルティアが歩いてきた。

 ガイスラッドにはドライデン制圧を伝えなかった。気を悪くしているかと思ったが、ガイスラッドは構わぬ様子で声をかけてきた。


「よう、キィ。お手柄だったらしいな!」

「ガイスラッド、悪かったな。二番隊に相談なしに踏み込んで」

「いや、おれも助かったところだ。親父がロギアルだから、気を使ってくれたんだろう?」


 俺は少し、目線を送った。


 ガイスラッド・ロギアル――父親はダガン・ロギアル。国軍の総司令として『三尖の炎』を授与された一人だ。ロイナートの話を聞いた時から、その名前に引っかかっていたが、やはり父親だったか。


「お前が動けば、大事になるだろうと思ってな」

「うむ。九賢候が相手では、軍を巻き込んだ内戦になりかねない。ドライデンだけの逮捕で済んで、本当によかった」


 アルティアの赤い眼鏡の奥の眼が、じっとガイスラッドを見た後に、俺の方を見つめる。が、何も言わない。

 しかしアルティアは、黙って礼をした。


「今度、何かある時は言ってくれ。力になるぞ」

「判った。頼りにするさ」


 俺はそう言うと、手を振ってその場を後にした。


   *


「――何の用だ?」


 俺を出迎えたヒュリアルは、顔を見るなり冷徹な眼を向けた。


「ご挨拶だな。まあいい、お前に渡すものがある」


 俺はそう言うと、ヒュリアルの座る机にノートの束を放り投げた。


「これは?」

「商人ダレスの家から押収した、闇パーティーの参加者リスト、ならびに、それに関わる資金運用の帳簿だ」


 ヒュリアルが端正な顔に、驚きを見せる。


「…何故、私にこれを?」

「お前は夜の烏の事件の時、貴族たちも調べたと言っていた。そのリストには貴族も大勢載っている。お前なら、貴族であっても完璧に調べるだろうと思ってな」


 ヒュリアルは鋭い目つきを俺に向けた。


「調べたところで、お前に報告するとは言えないが」

「構わん。お前が把握してればいい。その情報をどう使うかは――お前が考えればいい」


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