8 事件のいきさつを訊いたら
俺の問いに、シイファは顔を曇らせた。
「……神父長殺しの主犯と見做されてるニャコは悪くしたら死罪。あたしたちはその協力者として、バルディークの監獄に入れられる。…と思う」
「裁判もなしにか?」
シイファは頷いた。
「死罪なんてやだよぉ~」
ニャコが泣き声を出す。
「ニャコ、何もしてないのに~」
「……その神父長というのは、どういう状況で発見されたんだ? どうしてニャコは殺人犯と見做された? その経緯を話せ」
「話して……どうするの?」
シイファが不審な顔で訊いてきた。俺はその問いに答えてやった。
「俺は刑事だ。事件を捜査するのが、俺の仕事だ」
俺の答えにシイファは少し目を丸くした。が、結局、話し出した。
「――神父長のヴォード・ジェラルド様が、遺体になって教会の自室で発見されたのが昨日の夜8時頃。食事の食器を下げに来たメイドのサリーが見つけたの。サリーは夕方6時に食事を神父長様の部屋へ持ってきた。その時、部屋の中に声をかけると、『置いといてくれ』という神父長の声がしたそうよ。それで扉の外にサリーは食事を置いていった」
「つまり6時から8時の間に神父長は殺された、という事だな。神父長はどうして死んだ?」
「胸に大きな刃物の傷があったみたい」
「それで、教会の中にはどれくらい人がいたんだ?」
「教会の中には神父長、副神父長含めて15人の神父とメイドのサリーがいた。けど、その間にニャコが教会を訪問してたの」
それを引き継ぐようにニャコが口を開く。
「ニャコが神父長様に会いに行ったのは7時頃だよ。だけど神父長様はいなかったの。それで――」
ニャコが口ごもる。俺は口を開いた。
「何をしたんだ?」
「神父長様の霊鏡を持ちだしたのよ」
シイファが代わりに答える。
「あの大きな鏡か?」
「そう。神父長様の遺体が発見されて大騒ぎになり、そのうち霊鏡がないという事に気付いた。それで唯一の訪問者であるニャコのところに来ると、霊鏡を持ちだしていた。それで犯人として逮捕されそうになった」
「されそうになった――が、逃げたわけだな? どうしてだ」
「だって! ニャコたちはチェーちゃんを探してたんだもん!」
ニャコが声をあげる。
「チェーちゃんってのは、誰だ?」
「……あたしたちの、親友。チェリーナ……。あたしたちはニャコの霊力で霊鏡を使ってチェリーナを探してる最中だった。王都では最近、人が行方不明になる事件が頻発していて、チェリーナも一昨日に突然いなくなったの。判ってるだけで、チェリーナは五人目。国外に奴隷として売られたかもしれないし、もっとひどい目にあってるかもしれない……。けど、チェリーナは子供の頃に一緒に孤児院で育った、あたしたちの親友なの」
シイファはそう言うと、顔を曇らせた。
「五人の人間が行方不明で、その犯人は野放し――という事か。しかし霊鏡で探すとは何だ? あれはどういう物なんだ?」
「ニャコたち巫女や神父は、霊力を使って、亡くなった方の霊的昇天を補助したりすんの。その際に遺族の方の記憶を、霊鏡に写したりする。それに霊鏡は遠くを写す事もできる、便利な霊具なんだよ。ニャコは三人目の行方不明者の話を聞いた時、神父長様にお願いしてたのね。『行方不明者の居場所が判りませんか』って。そしたら……昨日、チェーちゃんが帰ってきてないって、おじさんたちに聴いて……もう、たまらなくなって神父長様のとこに駆け付けたの。そしたら神父長様がいなかったから――悪いと思ったけど、霊鏡を借りて自分で探してみようと思ったんだよ……」
「あたしはニャコからチェリーナの話を聞いて、家の霊鏡を持ちだしてニャコの教会へ駆けつけたの。まさかニャコが神父長様の霊鏡を持ってきてるとは思ってなくて。けど、そこで二人で霊鏡を見てると、警護隊が来て、神父長様が殺されたと言い、あたしたちを逮捕しようとした」
「それで、どうしたんだ?」
俺の問いに、ニャコは得意げに答えた。
「ガツンとやってやったよ! ニャコは特級巫女だからね!」
「……つまり、逮捕に抵抗した挙句、暴行を加えたわけだな?」
「だって、しょうがなかったんだよ! 向うは完全にニャコを犯人だって決めつけてるし!」
ニャコの抗議の声に、呆れ顔をしながらもシイファが口を開いた。
「確かに乱暴だったかもしれないけど……あたしたちが捕まったら、誰もチェリーナを探さない。あたしたちは、捕まるわけにはいかなかったんだよ」
警護隊とかいうのは、逮捕はするが捜査はしないわけか。それじゃ、捕まるわけにはいかないだろうな。




