10、謎の女が現れたら
ドライデンが眼を剥く。
「き……貴様、いったい何者だ…」
「キィ・ディモン。俺は刑事だ。ドライデン、婦女誘拐、暴行、監禁および殺人の容疑で、お前を逮捕する」
俺の言葉を聞き、ドライデンは口をあんぐりと開けた。
「このわしに……そんな事が許されると思うか!」
「お前を許さないのは俺の方だ。非道な罪に対する――罰を受けてもらおう」
ギリ、とドライデンが歯を食いしばる。
と、その時、ドライデンの頬に何かが現れた。
眼玉だ。あの今までの犯罪者に現れた眼玉の――それより大きいもの。眼玉はドライデンの頬いっぱいに現れ、ぐりぐりと動く。
「貴様も……操り人形か…」
ドライデンは背中を向けると、指輪をかざした。
「リオーガ! こいつらを喰ってしまえ!」
ギィ、と金属音をたてて、奥の鉄格子が開く。その奥の暗闇から巨大な影が歩み寄ってきた。
「こ、こいつは――一角虎! Sランクモンスターです!」
レスターが慄きの声をあげた。
四足の状態で上背は3mはあり、体長は5mはある怪物。白黒の虎模様で、その額からは剣にも似た角が生えていた。
「グルルルル――」
唸り声が響く。一角虎は一つ咆哮を上げると、俺の方へと跳躍してきた。
こいつは人間の味を覚えた怪物だ。生かしておく訳にはいかない。
俺は剣を返すと、赤刃の方を向けた。
気力は衝撃を与える当気があるが、斬撃力を増す斬気としても使える。今の俺は、それを使い分ける事ができた。
「剛気斬!」
俺は跳びかかってきた一角虎に向けて、剣を閃かせた。
一角虎が着地する。と、その首がボトリと落ちた。
「す…凄い――」
レスターが絶句する。俺は呆然となったドライデンに歩み寄った。
「観念しろ、ドライデン」
俺がそう言った、その瞬間だった。
突然、背後からドライデンの口をふさぐ手が現れる。と、ナイフを持った手が、ドライデンの喉を切り裂いた。
「ドライデン!」
「が…ぐふ……」
ドライデンの喉から鮮血がほとばしり、口から血が滴った。
倒れるドライデンの背後に現れたのは、一つ目ゴーグルの男――グリードだった。
「グリード!」
俺は発力してグリードを急襲する。
「フフ…ようやく戦えるな、キィ・ディモン」
グリードが不敵に笑った。
俺は剣を青刃に返し、グリードに斬りつける。
こいつは手加減できる相手じゃない。だが、俺は以前戦った時とは違う。俺は最初から奥義をぶつけた。
――真解衝気。
俺の斬りつけを、グリードがナイフで受ける。
「ムッ――オオッ……」
ナイフを通して、奴の中心を衝気で打った。
グリードが膝から崩れる。
「な…なんだ、こんな短期間で――」
グリードが呻いた。俺はグリードに歩み寄る。
「お前の正体を喋ってもらうぞ、グリード」
「――ざまあないね、グリード」
不意に別の女の声がした。
振り返ると、ドライデンの傍の空間から、突如、女が現れる。
豊満な胸と長い脚を惜しみなくさらしつつ、それをシースルーのドレスで覆っている。その目元には――一つ目の仮面。
女は紅い唇を吊り上げると、死にかけのドライデンの頬から巨大な眼玉を抜き取った。
その眼玉には尻尾のように、蛇の身体がついている。
「何者か知りませんが、その手を放しなさい!」
レスターが両腕から気渦を発射し、女を止めようとする。
が、その女の紫の髪が突如伸び、気渦を全て絡みとった。
「馬鹿な! 気力が吸い取れられている!」
「可愛い坊やだこと。あたしのスィート・ヘアーを味わいなさい」
大量の紫の髪がレスターの身体に巻き付いた。
「グアッ――」
「レスター!」
俺はシャイニング・ブリザードを放つ。が、髪の隙間から現れた巨大なカマキリが何匹も現れ、俺の魔法を防いだ。
「ファントム使いか……お前は誰だ?」
「あたしはレディ・スィート。あんたが、キィ・ディモンね。うふふ……あんたの相手はまた今度。帰るよ、グリード」
そう言い捨てると、二人は空間の中へ姿を消していった。




