9、魔法の本気を出したら
「オレとゴウの班は外で暴れてるぜ。広い方が好きだからな!」
ビットルの言葉に、巨人のゴウが頷く。
残りの隊員たちは屋敷内に突入した。
屋敷内の方が迎撃者が多い。突入した俺たちに、次々へと衛兵が襲い掛かって来る。が、俺は片っ端から重力波で吹き飛ばしたあとに、無力化していく。それでも中に強者がいて斬りかかってくるが、そういう奴は衝気で倒した。
「レスターはキィについて行け」
ヴォルガの指示がレスターに飛ぶ。
「判りました」
レスターは眼鏡を中指で抑えながら、返事をした。
傍にやって来たレスターが、俺に訊く。
「ドライデン候は二階でしょうか?」
見ると、二階からも衛兵が降りてくる。
が、俺は少し考えて答えた。
「いや……逃げ場のない二階に留まってるとは考えにくい。しかし外はビットルたちがいるから、脱出もしてないだろう。――一階の何処かに、隠し部屋がある」
そう言いながら進む俺たちに、数人の衛兵が剣を振りかざす。
「気渦流柔術、朽葉舞!」
両腕の周りで気力が渦を巻いている。その気流を放つと、衛兵たちが巨大になった気力の渦に巻き込まれて宙を舞った。凄まじい勢いで旋回した後に、床に叩きつけられる。俺はそいつらを、ディストレイナーで無力化した。
「ひどいダメージだ。衝気にやられた方がまだマシだろう」
苦笑する俺に、レスターが眼鏡を抑えながら微笑んだ。
「だから言ったでしょう? 殴る蹴るは、やらないと」
「奥へ行くぞ」
俺とレスターは、寄ってくる敵を蹴散らしながら奥へと進んだ。一つの部屋に警護の者が六人もいる。そいつを、重力砲と気力の渦で吹き飛ばした後に、俺とレスターは侵入した。
そこは、図書室だった。
「誰もいませんね……」
レスターが呟く。誰もいない部屋を警護しているわけがない。
俺はトリガーを引いた。
「バーニング・ブラスト!」
正面の本棚に爆熱波をぶちかますと、爆発した本棚の後ろに隠し通路が出てきた。
「やはりな……行くぞ!」
隠し通路は地下へと延びていた。階段を下りた後は、岩堀の通路が続く。その行きついた先に、一人の男がいた。
「待て!」
高級な身なりをした男が振り向く。男は壮年で、金髪をオールバックにしていた。
「お前が、ドライデンだな?」
「身分をわきまえろ、この痴れ者が!」
ドライデンが魔法杖から、辺り一帯を響かせるほどの雷撃を放つ。
俺はレスターの前に出ると、魔導障壁を発動した。
力場障壁が、雷撃を防ぐ。レスターが息をつきながら言った。
「凄まじい雷撃だ。さすが九賢候の一人……」
「――助けて!」
ドライデンの立つ向う側に、岩をくり抜いた牢屋がある。その鉄格子の奥に、七人ほどの少女が閉じ込められていた。
「さらった少女たちか…間に合ったようだな」
俺の呟きをよそに、ドライデンの声が上がる。
「お前ら下賤の者どもが、わしに勝てるはずなかろう!」
ドライデンが勝ち誇ったように怒鳴った。
「いいだろう……」
俺はM360サクラのトリガーを凍結弾に合わせる。
「今まで、全力で魔法を使ったことはない。九賢候とやらに通じるかどうか――試してみよう」
俺はドライデンに銃を向けた。
ドライデンは、形相を変えた。
「愚か者が!」
ドライデンが雷撃を放つ。
俺は最大級の凍結魔法を放った。
「氷嵐烈破!(シャイニング・ブリザード)」
電撃と氷破が衝突する。拮抗したように見えた。
が、氷破が閃光を放ち、雷撃を押し戻した。
「バ……馬鹿な――」
驚愕のドライデンを氷破が包み込む。閃光を放った後、その場には巨大な氷塊が生まれていた。
俺は歩み寄り、アースティアをあてる。
「衝気」
巨大な氷魁が砕け散り、中からドライデンがよろよろと出てきた。
「き、貴様……わしを誰だと思っている。わしは、九賢候の一人、『黄の明候』ドライデンだぞっ!」
そう喚いたドライデンに、俺は答えてやった。
「お前は凶悪犯だ。それ以外の何者でもない」




