8 有力者を敵にまわしたら
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扉の前に衛兵が二人立っている。俺はその一人に言った。
「ドライデン候にお目通りを願いたい」
「貴殿の名は?」
「キィ・ディモン」
俺の答えを聴くと、衛兵二人は頷き合い、俺に向かって言った。
「ドライデン様はお会いにはならない。今すぐ立ち去れ」
「そうか」
俺はその答えを聴くと、衛兵の一人を衝気で打った。
衛兵が倒れる。
「なに! 貴様、何を――」
もう一人もすぐに衝気で打つ。俺の情報は相手に伝わっているようだ。特に話をするつもりはない。
俺は数歩下がると、M360を取り出した。
魔力を高め、火炎弾に合わせた状態でしばらく充填する。
「爆裂光熱波!」
人を十分に包み込む程の光熱波が、門扉に発射される。火炎弾の応用だが、自分でも驚くほどの威力だ。
門扉が破壊され、向うにドライデンの屋敷が見えた。
「やったぜ! やるなあ、キィ!」
楽しそうな声があがった。
振り返ると、そこにはずらりとヴォルガ率いる第五番隊の隊員たちが勢揃いしている。喜色を浮かべて声をあげたのは、ビットルだ。
ダレスからの聴取では、まだ拉致された少女が最低、五人はいる。躊躇している暇はない。一刻も早く救い出さなければ、彼女らの命が危ない。
俺はヴォルガに事情を話した。
やはり貴族社会としがらみのないヴォルガ隊は、動いてくれることになった。しかも有志だけを募ったのに、隊員全員が参加してくれたのだ。
心強い奴らだ。俺は五番隊の隊員たちに声をあげた。
「今から、突入する。目的はドライデン候一人だ。みんな、よろしく頼む」
「まかせとけよ」
ヴォルガが笑みを浮かべて、剣を肩にかついだ。
「行くぞ!」
俺は声を上げると、屋敷の中庭に駆けだした。騒ぎを知った衛兵たちが、一斉に接近してきている。
「オーレが、先ぃ!」
ビットルが俺を抜いて先を走る。やはり普通に気力を使っただけなら、ビットルの方が早い。そのビットルの前に数人の衛兵たちが集まって来た。
「メテオ・クラッシュ!」
ビットルの身体が光り出すと、彗星のように加速して飛び横蹴りを放った。その威力に五、六人の衛兵が一挙に吹き飛ばされる。
着地したビットルは兎耳をたてて、得意気に振り返った。
「どうよ、オレの必殺技は?」
「大したものだ」
俺はそう返してやった。
俺の傍にも、剣を抜いた衛兵が寄ってきている。俺はM360のトリガーを力場照準に合わせた。それを貯め撃ちする。
「重力砲撃!(グラビティ・キャノン)」
名には見えないが大型の重力波が、衛兵たちを一斉に押し込む。倒れ込んだ五人の衛兵に、俺は接近した。
銃を左手に持ち替え、アースティアを抜く。先頭の衛兵の胸に、青刃をあてた。
「貫通衝気」
敢えて身体を貫通する衝気を使うと、五人が一気に昏倒した。俺は倒れたそいつらの上で、剣を振る。
「ディストレイナー」
五人全員の腕に、ディストレイナーがはまった。これでこいつらは無力化できた。
見ると、ヴォルガ隊のメンバーもそれぞれ暴れている。
巨人のゴウは手当たり次第に衛兵を殴り、その周囲では衛兵たちの身体が舞い上がっていた。
四本腕のヤルニカは、二本の鎌と一本の槍を器用に使い分けていた。遠間の奴には槍、接近戦では鎌を使っている。俺が指示したように、当気剣を使い致命傷は与えてない。
セインは女性の姿になって、無手格闘をしている。長い脚の華麗な回し蹴りが、何人もの衛兵にヒッ
トしていた。
ダークエルフの美人、メリアは魔導剣士だった。遠間で攻撃魔法を使い、近接戦闘では剣をふるっている。俺に近い戦い方だ、参考になる。
マルコとトッポも、改めて見ると大した戦闘力だった。二人は倒した奴を相手に、俺が渡したディストレイナーをはめている。
俺は襲撃前に100個ほどディストレイナーを作り、隊員たちに与えていたのだ。衛兵たちは殺さずに制圧し、ディストレイナーを使って無力化していく。それが五番隊に頼んだ襲撃方法だ。




