7 首謀者の正体を知ったら
「うごぁぁっ」
頭頂部に一撃を喰らい、ボスの眼玉が見開かれる。そのままボスは倒れた。
「ムンッ」
用心棒の剣が俺の身体に振ってくる。俺は発力して躱した。
「なにっ?」
どうやら用心棒には、俺の移動が見えなかったらしい。剣は空を切った。
俺は用心棒のすぐ横から、掌打の一撃を打ち込んだ。
衝気。それで終わりだ。用心棒の身体が力なく倒れていった。
“倉庫の制圧、終了しました”
不意にアルティアの念話が入る。
どうやら階下も静かになったし、倉庫の方も片付いたらしい。
一部だろうが、裏ギルドの連中を一網打尽にできたようだった。
*
俺とガイスラッド、アルティアの三人は、捕物の後、商人ダレスの屋敷へ来ていた。
「あの……警護隊の方々が、私に何の御用ですかな?」
でっぷり太ったダレスは、揉み手をしながら俺たちに言った。
「お前が裏ギルド『デスコルピオ』とつながりがあるのは判っている。お前がガスパオ候殺害を裏ギルドに依頼したこともな。どういうつながりなのか、全て話せ」
「な……なんの事ですかな」
ダレスは脂汗をかきながら、とぼけてみせる。
「面倒な奴だな」
俺は呟くと、ダレスに近寄った。掌で衝気をあてる。
「うぐぉっ!」
ダレスが全身のダメージで、倒れ込んだ。
俺はその腕を掴んで無理矢理立たせ、近くの椅子に座らせた。
次は異能の鍵を、ダレスの胸に差し込む。
「おい、キィ、何をやってるんだ?」
「こいつの心の扉を開く」
闇ギルドのボスに口を割らせたところを、二人は見ていない。
ガイスラッドの問いに答えて、俺はダレスに訊いた。
「何故、ガスパオ候殺害を闇ギルドに依頼した? 全て話せ」
俺の言葉を聞くと、ダレスは歯を剥き出しにして笑みを浮かべた。
「奴が臆病風を吹かせたからだよ!」
「どういう意味だ?」
「元々、私も奴もある秘密クラブの会員だ。それは娘たちと楽しむ秘密パーティーの参加者だ!」
ダレスは眼をギラつかせてそう言った。
「最近起きている娘たちの行方不明事件は…お前たちの仕業か?」
「娘が足らないんでね! 奴隷を買ってくるのだが、足らない時はギルドに頼んで補てんする。奴も自分の領内の住民をさらう事を黙認していた」
つまり、ガスパオ候も充分、仲間という訳か。
「……どうして仲間割れした?」
「奴が新しい趣向に、ビビり始めたからだ」
「新しい趣向とはなんだ?」
俺の問いに、ダレスが喜色満面で口を開いた。
「楽しんでる最中に、怪物に娘の一人を喰わせるのさ!」
目が血走り、口の端からよだれが垂れている。
「特に基準はないが、その場にいた娘を一角虎のエサにする。娘は逃げまどい、怯えて泣き叫ぶが、結局、虎の角に串刺しにされ、柔らかい内臓から喰われる。それを見ている娘たちも、恐怖の顔でそれを見る。中には失神したり、粗相をする娘もいるほどだ。我々はその怯え切った顔を見ながら、心ゆくまで娘たちを楽しむのだ」
ダレスは興奮した様子で喋ると、だらしない笑みを浮かべた。
「そんな……ひどい事を――」
アルティアが口を手で抑え、赤い眼鏡の奥の眼を見開いている。
無理もない。こいつらの嗜好を理解できる方がおかしいのだ。
「――ガスパオは乱交だけしてた時には、それなりに参加していたのに、この新趣向を始めてから参加しなくなった。結局のところ、娘たちは処分するのだ。その方法が変わったに過ぎないのに。あまつさえ奴は、クラブを抜けたいと言い出したのだ。そんな事を、あの方が許すはずがない」
「……あの方とは、誰だ?」
俺の問いに、ダレスが笑った。
「九賢候の一人、『黄の明賢』ドライデン様だ!」
ガイスラッドとアルティアが、息を呑むのが判った。
*
「――相手は九賢候だ。どうする?」
俺はガイスラッドに問うた。さすがのガイスラッドも、難しい顔をしている。
「王家と賢候は、基本的には同格の立場だ。領主として自分の軍隊を持っていて、100人は常駐しているだろう。そこに踏み込めば、内戦になる。これはおれの一存で判断できる事じゃない。まず総隊長に報告をする」
「そうか。判った」
そう答えることは予想していた。




