5 闇ギルドの拠点制圧を決定したら
「魔導障壁」
魔導障壁は力場魔法の応用だ。今の俺なら使える。
売人の火炎弾が、俺の手前で停止して爆発する。
「チッ」
売人が逃げ出した。路地を駆けていく。
俺はその背中に、銃を向けた。
「力場照準」
赤い光線が売人の背に当たる。と、俺は売人の身体を宙に持ち上げ、左、右と壁に叩きつけた。
「ぐぇぇっ!」
売人が呻きながら、地面に落ちる。
俺は地面に倒れた売人に歩み寄った。その後ろから、グロッサーがついてくる。
「兄貴って、魔法も凄いんですね。感動です」
俺はしゃがみ込むと、フードを掴んで売人の顔を持ち上げた。
「お前に訊きたいことがある。闇ギルド『デスコルピオ』について話せ」
「し、知らねえ!」
男は必死の形相でそう答えた。まあ、その答えは予想していた。
「異能の鍵」
俺は異能の鍵を手に出した。
「な……なにしやがる…」
「心の扉を開いてもらうぞ」
証拠能力はないかもしれないが、この異能はまさに刑事の俺が欲していたものだと痛感する。尋問もせずに真相を話させるなんて、リワルドの連中が知ったら大騒ぎになるだろう。
俺は売人の額に、鍵を差し込んだ。鍵は額に消えていく。
「闇ギルドについて話せ」
「い、嫌だ!」
売人がそう言うと、額から鍵が出てきて地面に落ちた。
「……ふむ。抵抗力があるうちは、拒絶できるようだな」
「どうするんです、兄貴?」
グロッサーの問いに、俺は背中を向けたまま答えた。
「なに、もう少し弱らせるだけだ」
俺は右手に衝気を込めた。
*
俺は第二番隊の詰所へと出向いた。
俺は出迎えたガイスラッドに、まず問うた。
「領民たちは、どうだった?」
十字傷のガイスラッドは、渋い顔を見せる。
「それがな…、足跡に一致する領民はおらんし、出歩いた者がそmそもおらん。なんでも、村の若い娘がいなくなる事件が起きていて、皆、夜は家に閉じこもっていたようだ」
「そうか……。こちらはあのペンダントの正体が判った。『デスコルピオ』という、闇ギルドの標だそうだ」
「闇ギルド!」
ガイスラッドは驚きに眼を見開いた。
「今まで犯罪者を捕らえた事はあったが、闇ギルドについては一切喋ろうとしない奴ばかりだった。闇ギルドについて喋るくらいなら、本当の意味で死んだほうがマシだという態度だ」
「闇組織は、秘密を洩らした奴のみならず、その近親者の命を奪うと言って脅しをかけるからな。喋らないのも無理はない」
「しかし……お前は何故、それを知った?」
「色々な。特に、連れてきた売人には詳しい事を喋らせた。そこでお前に相談があるんだが」
「なんだ?」
俺は、不審な顔をするガイスラッドに言った。
「闇ギルドの拠点が判った。突入して一斉検挙したいが、この事件は二番隊の管轄で起きている。だからまずお前に声をかけたが、二番隊を出したくなければ、俺は五番隊に出てもらおうと思っている。お前はどうしたい?」
俺がそう問うと、ガイスラッドが椅子をひっくり返して立ち上がり、大声をあげた。
「どうもこうも! これは二番隊の事件だろうが! この突入に臆する者など、二番隊にはおらん!」
「そうか。……では、二番隊に頼もう」
「おう!」
勢いよく返事をしたガイスラッドに、俺は言った。
「売人によれば、その拠点はこの国に幾つかある中の、一つらしい。しかし事件の地域から考えると、そこがテリトリーだろう。拠点に常駐している人数は20から30人程度で、戦闘ランクでいうとC、Dランクが主体だそうだ」
「よし――アルティア!」
ガイスラッドは伝令管を取ると声をあげた。
「全員集合させろ! 第二番隊はこれより、闇ギルドの拠点制圧に向かう!」
伝令管を戻すと、ガイスラッドは不敵な笑みを浮かべた。




