4、標の正体を知ったら
そこにキャシーがやってきた。
「キィさん、いらっしゃいませ。何にします?」
「俺はいいが、こいつらに酒と適当なものを持ってきてくれ」
俺はそう言うと、キャシーに金貨を一枚渡した。
「あ、ありがとうございます、兄貴ぃ!」
ガモフが眼をうるませながら、俺を見つめる。別に可愛くはない。
「そうだ、兄貴ぃ、一緒に狩りにいかないすか? 兄貴と一緒なら、上級モンスターも狩れそうな気がするんすけど」
出っ歯のギミーがそう続けた。
「別に構わんが――今日はお前たちに訊きたいことがあって来たんだ。お前たち、これが何か知らないか?」
俺はそう言うと、サソリのペンダントをテーブルの上に出して見せた。と、特徴のない奴が、慌てた声をあげる。
「ちょ、ちょ――ヤバいっすよ、こんなもの大っぴらに出しちゃあ!」
そう言うと、特徴のない奴は、慌てて両手でペンダントを覆った。
「これが何か判るのか――えぇと……なんだっけ?」
「あ~、またオレの事、忘れられてる~! オレはゲレスです!」
「そうか、ゲレスか。お前、これが何か知ってるのか?」
「知ってますよ。とにかく直してください」
俺はゲレスの言う通り、ペンダントをしまった。
「兄貴、それは裏ギルド『デスコルピオ』の標ですぜ」
「裏ギルド? なんだ、それは?」
「オレたち冒険者は狩ったモンスターを捌いたり、ギルドからクエストを受けて稼いでるんです。けど、そういう表向きの仕事じゃない仕事を扱ってる裏のギルドがあるんです」
「…どんな仕事を扱ってるんだ?」
ゲレスは少し息をつくと、続けた。
「何でもですよ。強盗、殺人、誘拐、密猟、麻薬の運搬と売買――そんな裏仕事です」
「犯罪だな」
「そうです。けど、ヤバい橋渡っても稼ぎたい奴や、喰うに困った奴なんかが手を出すんです。一旦、仕事を受けると抜けられません」
「お前はどうして、それを知ってる?」
俺の問いに、ゲレスは苦笑した。
「オレの前の連れが裏ギルドの仕事を引き受けたんです。仕事を引き受けると、標が渡されます。で、裏の仕事なんで、寄せ集めの集団なんですが、集合の際に、その標を見せ合って確認するんです。オレはそいつからその標を見せられて、そんな話を聞きました。で、オレも裏ギルドに勧誘されたんですが、おっかなくなって逃げました。しばらくしたら、もうオレのことは忘れたらしく、会わなくなったんです」
特徴がないのが幸いしたか。運のいい奴だ。
話が本当なら、本来は少しでも情報を持ってる奴は、決して手放しにしない犯罪組織だろう。
「覚えづらいのが幸いしたな。お前はいい刑事になれる」
「え、そうなんですか? へへ」
嬉しそうな顔をするゲレスに、俺はさらに訊いた。
「その裏ギルドに属してる奴に合う方法はないか?」
「いやあ……その連れも、生きてるか死んでるか判らないんで……」
ゲレスが困った顔をすると、ギミーが口を開いた。
「兄貴、ヤクの売人なら裏通りにウロチョロしてますぜ」
「そうか。そいつから薬を買うフリをして近づけばいいか」
俺がそう言うと、ガモフが口を開いた。
「いやあ、兄貴はちょっと血色がよすぎるんじゃないですかい? ヤク中ってのは、もっと不健康なツラしてないと――」
ガモフの言葉を聞きながら、俺はテーブルを見渡す。
細目で細身のグロッサーに、全員の眼が止まった。
「え? オリ?」
グロッサーは自分を指さして、驚いてみせた。
*
敢えてボロボロのマントをまとい、グロッサーがフラフラと裏通りを歩いていく。頬はこけてるし細目で細い身体が、確かに薬物中毒者っぽい雰囲気だ。あいつも中々いい潜入捜査官になれる。
そこへ一人の男が近寄って来た。頭からフードを被り、顔は見えない。男とグロッサーは何か話しているが、グロッサーが後ろ手で、OKのサインを作った。売人だ。
「そこのお前、俺にも話を聞かせてもらおうか」
俺は懐から拳銃を抜きながら、そう声をかけた。男が驚いたように、こちらを見る。
頬がこけて、眼が飛び出ている。この本人も、クスリをやっているに違いない。売人は言った。
「お、おめえは誰だ?」
「俺は刑事だ。話を聞かせてもらおう」
男はいきなり杖を出すと、火炎弾を撃ちこんできた。
「これでも喰らえ!」
俺はM360の柄についている魔導障壁の魔法を使う。




