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3、巫女が気絶したら

 二番目の棚。ガスパオ候が頷く。引き出しの中には雑貨などが入っていたが、一つ小箱があった。俺はそれを取り出して見せると、ガスパオ候は指さした腕を降ろした。


「これなのか?」

「――もう、とどめていられないよ」


 俺はそう言ったニャコに頷いて見せた。ニャコが夫人たちに言う。


「ご主人に、お別れしてください」

「あなた! ……私たち、どうしたら――」


 夫人が涙ながらにそう口にした。娘たちも、泣きながら別れの言葉を言っている。悲し気な表情のまま、ガスパオ候は昇天した。


「それは、何なんだ?」 


 小箱を手にした俺の傍に、ガイスラッドがやってきた。


 俺は小箱を開けてみる。

 その中には、丸型のペンダントが入っていた。


 鎖を掴んで持ち上げてみる。それはサソリが鋳造されたペンダントだった。と、突然、ニャコの声がした。


「あ――」


 ニャコが驚きの眼で、こちらを見ている。口を開けているが、それ以上、声が出ない。その表情を支配するのは、驚きより――恐怖。


 そう思った瞬間、ニャコの身体が力を失って倒れ込む。


「ニャコ!」


 俺はすぐに駆けつけて、ニャコの身体を支えた。


「どうしたんだ、ニャコ」


 声をかけるが、完全に気を失っている。俺は夫人に頼んで、ニャコをソファに寝かせた。


 しばらく様子を見るが、回復する気配がない。


 俺はガイスラッドに言った。


「悪いが、ニャコを連れて教会に戻りたい。一旦戻ったら、馬車でまた戻ってくる」

「あ、馬車のことならご心配なく」


 アルティアは俺を制すると、軽く目を伏せた。と、少しして口を開く。


「大丈夫です。今、隊員に別の馬車で来るように頼みました」

「念話か。既にリンクをつけていたのか」

「わたしは連絡役でもありますから、常に、です」


 アルティアの言葉の後に、俺はガイスラッドに言った。


「貴族が殺されて、怪しいのは領民たちか盗賊という事になる。隊員を使って領民を調べ、足跡を照合してみるといい。また連絡する」

「判った。そうしてみよう」


 ガイスラッドは、そう言うと大きく頷いてみせた。

 

   *


 教会に戻ると、シイファが在宅していた。ニャコを抱きかかえて戻って来た俺を見て、シイファは驚きの声をあげた。


「ニャコはどうしたの?」

「現場でいきなり倒れた。それから意識が戻らないんだ。とりあえず、ニャコの部屋に寝かせるが」

「判った」


 シイファがニャコの部屋のドアを開ける。俺はベッドにニャコを降ろした。


「こういう事はよくあるのか?」

「ううん。本人は至って元気。こんなの初めてよ」


 シイファは首を振って、ニャコの額に手を当てる。


「熱もなさそうだし……病気じゃなさそう」

「これを見て、突然、倒れたんだ」


 俺はサソリのペンダントを見せた。


「何か判るか?」

「ううん、全然」


 俺は少し考えたが、シイファに言った。


「ニャコの事を診てもらっていいか? 俺はこのペンダントの正体を探ってみる」

「判った。とりあえず、急に体調が崩れることもなさそうだし」


 頷くシイファを見て、俺は外へと出た。


   *


 ガスパオ候が貴族だから、貴族なら知ってる可能性が高い。しかしまずガイスラッドもアルティアも見た事がないと言っていた。俺はメサキドとヒュリアルに現物を見せて訊ねてみたが、二人とも何も知らなかった。


 俺はヴォルガの処に行って、サソリのペンダントを見せた。


「あ~、オレも知らねえな。隊員たちなら平民や冒険者の事情に詳しい者もいるが?」

「冒険者か――いや、ありがとう。少しアテがある」


 俺がそう言うと、ヴォルガは狼の顔でニッと笑った。

 俺はキャロラインを訪れた。


 まだ夕方だが、もう客が結構いる。奥の席に、思惑通りガモフたちがテーブルを囲んでいた。


「よう。――なんだ、なんかしょぼくれた顔をしてるな?」

「あ、キィの兄貴!」


 ガモフが驚いた後に、出っ歯のギミーが口を開く。


「聞いてくださいよ、いつものように下級モンスターを狩りに行ったら、そこで上級モンスターと出くわしちまって――命からがら逃げてきたんす」


 そう言うと、全員がため息をついた。どうやら凹んでいるらしい。


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