表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/143

2、遺体から霊を呼び出したら

「――なあ、足跡なんか調べてどうするんだ?」


 ガイスラッドが不思議そうな顔をする。


「侵入した賊が何人いたかが判る」

「そんなのは、賊を一人捕まえた後に吐かせればいいんじゃないのか?」


「一番の大物を隠し通すかもしれないだろう。その場に何人いたのかを特定するのは、極めて重要だ」

「なるほど」


 ガイスラッドは納得したように、鼻で息を吹いた。俺はアルティアにタブレットを返しながら言った。


「賊は足跡だけで判断するなら最低五人。同じ靴を履いてる可能性もあるから、決定ではないがな。――あ、まだ消さないでくれ。室内にそれ以外の足跡が残ってる可能性がある。そういう時に、画像記録があると照合できるからな」

「……そんな使い方ができるんですね」


 アルティアも、感心したように声を洩らした。

 俺たちは玄関に戻り、屋敷内に入った。


「使用人が四人殺されたと言ってたな? どういう連中なのか判るか?」

「それは、夫人に訊ねた方がいいかもしれません」


 アルティアの言葉を受けて、俺たちは屋敷内に入った。


「ひゃっ!」


 ニャコが悲鳴を上げる。玄関扉を開けた途端、一人の男が倒れていたからだ。うつ伏せになっていて、玄関に向けて手を延ばしている。その一体の床は血だまりが出来ていた。


 背中に大きな傷がある。が、斬りつけた傷以外に、横腹にも刺し傷が左右に幾つかあった。顔を見ると、30代半ばから40代前半くらいだ。


「どうやら玄関から逃れようとして、ここで殺されたようだな。しかも複数の人間に傷つけられている」


 俺はそう言ってから、アルティアを見た。


「夫人たちは?」

「向こうの部屋です」


 アルティアに案内されて、俺たちは一室へと向かった。

 そこには青ざめた夫人と、怯えた顔の娘二人がいた。娘たちはそれぞれ、15、6歳と、12,3歳くらいに見えた。


「ガスパオ夫人ですね。私はキィ・ディモン。警護隊の事件調査員です。少しお話をお伺いしてもいいですか?」

「あ……はい」


 薄紫色の髪を結いあげた夫人は、やつれた顔でそう答えた。


「殺された使用人の事を教えてください」

「執事のトーバスと、料理人、警護役の魔導士と剣士の四人です」

「全員男性ですか?」 


 夫人は頷いた。


「玄関で倒れていたのは?」

「剣士のリドルです。帰ってきたら彼が倒れていて……恐ろしくなって奥へ行ったら――主人が……」


 夫人は両手で顔を覆った。

 可哀そうだが、俺はさらに質問を続けた。


「昨夜、夫人と娘さん方は屋敷にいなかったという事ですが、どのような理由で留守にしてたのですか?」


「商人のダレスの別荘に招かれてましたの。ダレスの娘はうちの長女――ニーナと同い年で、普段から仲良くさせてるんです」

「ダレスさんとは、どういうつきあいで?」


「うちの領内から摂れる魔晶鉱石を捌いてもらってますの。もう長い付き合いですわ」

「なるほど」


 俺が頷くと、夫人が言った。


「早く……主人を昇天させてやってください。あのままじゃ、あまりにも可哀そうで――」


 するとアルティアが、口を開いた。


「そうですね、ご主人の霊が何か手がかりを伝えてくれるかもしれませんし」


 俺は頷いて、夫人にガスパオ候の遺体の処まで案内してもらった。


 ガスパオ候はがっしりとした体つきの男で、やはり数ヶ所の切り傷と刺し傷がある。複数の人間から殺された痕跡だった。


「ニャコ、大丈夫か?」

「……うん。大丈夫」


 直接殺害された現場を見て、ショックを受けたのだろう。ニャコは心なし、青ざめた顔をしている。だがニャコは昇天の儀を施し始めた。


 ニャコの身体が白く光り、その光が遺体に移る。と、ガスパオ候の遺体から、霊が浮かび上がってきた。


「あなた!」

「パパ!」


 夫人と娘たちが声をあげる。

 ガスパオ候は驚いたように家族を見るが、悲し気な顔をした。


 と、ガスパオ候が、不意に何処かを指さす。


 指さした方向には、棚があった。俺はそこに近づいて、一番上の引き出しを指さす。ガスパオ候の霊が首を振る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ