表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/143

10 十字傷の男が現れたら

「お前がキィ・ディモンか?」

「…そうだ、と言ったら?」


 男は不敵な笑みを浮かべたまま、俺を見ている。


「いい面構えだ、悪くない」


 俺と十字傷の男は、しばし睨みあった。と、


「――あ~っっ!!」


 その時、背後からニャコの声が響く。ニャコはさらに声をあげた。


「ちょっと! 何、ドア壊してんだよ!」

「い……いや、すまん。ガタついてたので、無理に開けようとしたら――」


 十字傷の男は、突如、弱ったような顔をしてニャコに言った。ニャコの怒りは収まらない。


「古いから中の方が錆びてたんだよ! 壊さないように、注意して開けてたのに!」


 ニャコはズカズカと男の方に歩いていく。男がたじろいだように道を開けると、背後にドアがなくなった入口があった。ドアは完全にとれて、外へ倒れている。


「あーっ! 完全にとれてるじゃん!」

「す…すまん……」


 男は申し訳なさそうに、片手を後頭部にあてた。


「シイちゃん、お願い~」

「あいよ」


 後ろからやってきたシイファが、返事をしながら前へ出る。


「ちょっと! ドアを持って!」


 ニャコは十字傷の男に命令する。男は言われた通りにとれたドアを持ち、元の場所へと近づけた。

 シイファが緑の指輪を光らせ、修復魔法をかける。俺はシイファに訊ねた。


「ドアを持つ意味はあるのか?」

「修復魔法は半径15cm圏内くらいじゃないと効力ないからね。――はい、直った。けど、錆びついてるのはとれないから、元のままだよ」

「ありがと、シイちゃん」


 ニャコがシイファに微笑む。


 俺は十字傷男に、向き直った。


「…で、あんたは誰だ?」


 俺の問いに、十字傷男が無意味に不敵な笑みを浮かべる。


「おれは王都警護隊、第二番隊隊長ガイスラッド・ロギアルだ」


 この強面十字傷男が二番隊隊長? 一番隊のメサキド、三番隊のヒュリアルが貴族っぽい、細い連中だったからそういうものかと思っていたが――ヴォルガ以外にも屈強な奴がいたようだ。


「で、その二番隊隊長が、俺に何か用か?」

「フフ……キィ・ディモン。夜の烏と戦った時に、相当な腕だったと聞いてるぞ。どうだ、おれと戦え!」


 ガイスラッドは喜色を浮かべて、俺にそう言った。


「断る」

「なにぃ! 何故だ?」


 憤然とした顔をするガイスラッドに、俺は言ってやった。


「お前と戦う理由がない」

「強い奴と戦うのが、漢の生き様だろうが!」


 納得しないガイスラッドに、俺は言った。


「俺は刑事だ。犯罪者制圧のためには戦うが、必要以上に戦闘を求めてはいない」

「なんだと! いや……じゃあ、訓練ってのはどうだ?」


 ガイスラッドは何故か弱気な表情で、そう俺に懇願する。


 と、その背後から女性の声が響いた。


「はいはい、隊長! そこまでですよ!!」


 教会に入ってきたのは、黒髪をボブにして赤いフレームの眼鏡をかけた女性だった。警護隊の制服をスカート仕様で身に着けた女性は、小脇にタブレットっぽいものを挟んで歩いてくる。


「ガイスラッド隊長、本来の要件を忘れてます!」

「そ、そうだった。すまん」


 ガイスラッドは片手を後頭部にあてて、眼鏡の女性に謝った。赤メガネ女史は、改めて俺たちに向き直ると礼をした。


「お騒がせして申し訳ありません。わたしは第二番隊の副隊長、アルティア・ゼスカと申します。事件調査員キィ・ディモンさんに、協力要請をしにやって参りました」


「協力要請?」

「はい。警護隊が関わるような事件の際には、今後は調査員であるキィ・ディモンさんに協力を仰ぐようにと、ロイナート総隊長からの通達がありましたので」


 そう言うと、アルティアは俺の方をじっと見つめた。


 恐らく、値踏みをしている。俺がどれくらいの能力があるのか、見極めようとしている様子だ。この副隊長は頭が切れて、戦闘バカの隊長を支えてる――そんなところだろう。


「という事は事件があったという事だな。判った、すぐに向かおう」

「それと――巫女のニャコ様もご協力いただくようにと」


 アルティアはニャコに向き直り、そう告げた。


「ニャコも? ……うん、判った」


 ニャコは少し微妙な表情で、そう頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ