9 力封錠を出現させたら
この調子で、比喩で様々な現象変化が記述され、それをイメージできると魔法現象が起こせる。そのイメージ展開は以前は詠唱によって行っていたが、今は魔晶石に法式を刻印しているので、詠唱を省けるという事だ。
しかしあくまで省けるだけなので、自分が理解していない事は展開できない。パソコンの原理が判らなくても使えるのとは少し異なってくる。
「――あの~」
と、本を読んでる俺に、話しかけてくる奴がいる。顔を上げると、トッポだ。
「詰所の掃除でもやろうかと思うんだけど……」
「悪いな、今、少し手が離せないんだ」
俺がそう断ると、トッポが後ろのマルコに振り返る。
「なあ、おいらたち、キィの先輩じゃないの?」
「そうは言っても…あの実力だし――」
ふと俺は思い立って、二人に言った。
「そうだ。先輩二人に協力してほしいんだが」
俺の言葉を聞いて、二人は顔を合わす。細長いトッポが胸を張って口を開いた。
「おう! 何でも、おいらたちに言ってくれ」
「そうそう、おれっちたち先輩だからな!」
丸っこいマルコも隣で胸を張って言う。
俺は席から立つと、二人の前に立った。
「じゃあ、両手を前に出してみてくれ」
二人は訳も判らず、両手を前に出す。
異能の錠。
俺は二人に異能の手錠をかけた。二人が驚きに声をあげる。
「あ! 何するんだ、キィ!」
「トッポ、気力を出してみてくれ」
「なんだか判らないが、やるぞ。う~ん!」
トッポは気力に必要な爆発呼吸をする体勢に入る。と、苦しそうな顔でむせ込んだ。
「ウェッ、ゲホッ、ゴホッ! なんだこれ、爆発呼吸ができない!」
「うむ。力場魔法で首を絞めるのが、ちゃんと作動してるな。次はマルコだ。魔法を使ってみてくれ」
「え――なんか嫌な予感が……」
そう言いながら、マルコが魔法杖を持つ。
「うわっ! 頭がキーンとする!」
マルコはそう言うと、頭を抑えた。超音波で頭痛を起こすのが、うまくいったらしい。
「うむ。やはり俺が錠と認識してれば再現可能だったな」
「な――なんだこれ?」
マルコの問いに俺は答える。
「力封錠だ。異能で出してるから、ディギア・リストレイナーか。長いな、ディストレイナーにするか」
原理的に成功してるから、恐らく霊力に対しては電気が流れるだろう。あの首輪スタイルは感じが悪かったので、俺は手錠型にしたが。これで犯罪者逮捕の際に、力を封じて逮捕できる。俺はそのために魔導書を読み込んでいたのだった。と、トッポが声をあげる。
「お、おい! これ、どうやって外すんだ?」
「放っておいても、12時間後くらいには消えるようだ」
「おいっ! それまでこの状態かよ!」
「あとは、俺が消すしかない」
俺はそう言うと、ディストレイナーを消してやった。ホッとした二人に、俺は言った。
「俺の異能の事は、なるべく口外しないで欲しいんだ。頼むよ、先輩たち」
「お、おう…」
「判ったよ、なにせ後輩の頼みだからな」
二人は複雑な顔をしたまま、俺に胸を張ってみせた。
*
数日は平穏に過ぎた。しかし、新たな事件はすぐにやってきた。
朝食を食べていると、突然、激しい破壊音がする。リビングの前室である礼拝堂の方だった。
「二人とも、そこを動くな!」
俺はそれだけ言うと発力して、瞬時に礼拝堂に移動した。
そこには、一人の男が立っている。
一目で判る強者の身体だ。高い上背と厚い胸板、太い腕。青みがかった髪はたてがみを思わせ、顔の色は浅黒かった。
だが何よりその男の眼を引く特徴は、顔についた×印の白い傷だ。眉間の下あたりを中心に、稲妻のようにギザギザで白い傷が顔を覆っている。俺はその男に言った。
「誰だ、お前は?」
男はがっしりとした顎の上の唇に、不敵な笑みを浮かべた。




