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8 事件調査員に任じられたら

「ムッ」


 ロイナートがファントムを両断する。その肩に隙がある。


 真解衝気。


 俺はロイナートの肩を剣で打った。


「むおっ!」


 真解衝気が全身に伝わり、ロイナートが呻いた。と、ロイナートの身体がゆっくりと床に倒れる。俺は息をついた。


「キィ、大丈夫!」


 ニャコが駆け寄ってくる。その後ろからシイファも来ていた。


「ちょっと……どういう事なの? なんで、剣でやりあってたの?」


 シイファが驚きを隠せない様子で口を開いた。


「むぅ……」


 と、倒れてるロイナートが声を上げると、その身体が白く発光し始めた。それは身体回復の技だ。


「まさか――真解衝気のダメージを回復させてるのか?」


 なんて奴だ。俺は慄きの中で、そう呟いた。

 ロイナートがゆっくりと立ち上がる。その表情には、静けさがあった。俺はそれで、すべてを悟った。


 そのロイナートに、ニャコが声をあげる。


「ちょっと! キィに何かしたら、許さないんだからね!」

「大丈夫だ、ニャコ。ロイナートは…俺を試しただけだ」


 俺は、くってかからんばかりのニャコを制止した。

 ロイナートが、俺を見て口を開く。


「真解衝気は使えるようだが、対人での戦術は未熟だ。リュート・ライアンの継承者というには遠く及ばない」

「俺は刑事だ。剣士を極めたいわけじゃない」


 俺の言葉を聞いて、ロイナートは俺を厳粛な表情で見つめた。

 ふと、何かを投げてよこした。俺はそれをキャッチする。


 小さな襟章である。剣と盾を一つにしたような紋章だった。


「ディモン、お前を警護隊の事件調査員に任じる。普段はヴォルガ隊所属で構わんが、事件の際は私に報告書を提出しろ。隊長たちには周知しておく。三尖の炎はあまり見せるな。話は以上だ」

「判った。……感謝する」 


 俺はそれだけ言うと、ロイナートの雰囲気を感じ、退出することにした。が、ふと気づいて俺は振り返った。


「ロイナート……リュート先生の葬儀にいたのは、あんただな?」

「――その質問に答える義務はない」


 視界の隅に見えた光。あれはロイナートの金髪だったのだ。

 沈黙を守る総隊長を残し、俺はその場を去った。


   *


 警護隊本部を後にすると、ニャコがぶりぶり怒って口を開いた。


「なんだよ、あの金髪堅パン! おかしいなと思って戻ったら、キィに襲い掛かってたじゃん!」


 金髪堅パン――俺はニャコの言葉に、思わず苦笑した。


「なんだよ、笑い事じゃないでしょ?」

「いや、ありがとうニャコ。俺のこと、心配してくれたんだな?」

「え……ま、まあね…」


 ニャコがニヤついてテレる。

 俺はそれを見ながら、ニャコとシイファに言った。


「……ロイナートは、リュート・ライアンの弟子だ」

「え~っっ!!」


 二人は声をあげた。


「なんで、そんな事が判るの?」


 シイファの問いに、俺は答えた。


「手ごたえが……衝気の感じだった。それに、ロイナートはずっと俺に打たせる機会を伺ってた。そこにニャコが来たんで、わざと隙を作り、俺に真解衝気を打たせたんだ。俺がリュートから、何処まで無斬流を学んだかを見るためだ。だが俺の実力では、リュートのように、他国に対する抑止力にはならない。それを確認したかったんだろう」


「あの、調査員に任命したのは?」


 シイファが訊くのに、俺は答える。


「俺を管理下においておきたいんだろう。それに、あまり三尖の炎の紋章を見せて回ってると、よく思わない者が必ず出てくる。それは俺に対してだけでなく、それを渡した王子への批判につながるはずだ。それを未然に防止した、というところか」

「なるほど~、堅パンも色々考えてるんだねえ」


 ニャコが腕組みをして感心した。


   *


 俺はシイファに借りた魔導書を読んでいた。


 この世界の魔法とは、つまるところ化学や物理だった。高校物理くらいまでならなんとか対応できるが、相対性理論や量子論はお手上げだ。だから時間を戻す修復魔法は、相当に高度な魔法で、俺には無理な事が判った。それをなんなく使っていたロイナートは、魔導士としても一級だと改めて認識した。

しかしそういう内容が直接書いてあるわけでなく、記述方式は比喩だ。例えば


『大気に宿りし炎の精よ、我がもとに集いてその姿を現せ』


 なら、大気中の酸素を凝縮して発火させる。これがつまり火炎魔法だ。


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