6 総隊長に呼び出されたら
「――その機密事項ってのは何だ?」
俺はソファに座りながら口を開いた。ロイナートが俺を睨む。心なしか、俺の無礼を不愉快に感じた顔だ。
「リュート・ライアンの死」
ロイナートはそう言った。俺はロイナートに問うた。
「何故、それを知っている?」
葬儀にいたのは俺たち三人とヴォルガだけだ。だが、その答えはロイナートより先に、シイファが答えた。
「『シャドウレス』――という特別な諜報組織を総隊長は持っていると聞いてるわ。多分、調べていたのよ」
シイファの言葉に対しては肯定も否定もする様子はなく、ロイナートは席を立って歩き始めた。
「諸君らがどう考えてるかは知らぬが、リュート・ライアンが死んだことは、我が国の防衛上の危険を他国に晒すことになるのだ」
「一剣士の不在がそこまで? しかしリュート先生は、今までも所在不明だったのだろう?」
じろり、とロイナートが俺を睨む。が、ロイナートは口を開いた。
「ラウニードが独立した三年後、ガロリア帝国は統治官を派遣するという名目で我が国を傀儡化しようとした。統治官の設置を拒むと、帝国は軍隊を国境まで送り込んできた。その帝国軍と我が軍は戦った。しかし帝国軍には、当時、最強の剣士と言われた『皇帝の黒剣』ジュール・ノウがおり、我が軍ではその進行を抑えきれなかった」
ロイナートはゆっくりとソファの傍まで来る。
「何十人いようと、ジュール・ノウには関係がなかった。そのあまりの強さに、帝国の要求を呑むしかないと九賢候会議で決まりかけた時、リュート・ライアンがジュール・ノウに戦いを挑んだ。二人は三日間、不眠不休で戦い続けたが、勝負はつかなかった。この『ゼストレ峡谷の戦い』で、結局、帝国は軍を引き上げ、統治官の話はなくなった。ラウニードを帝国から守ったのは、リュート・ライアンなのだ」
ニャコとシイファも、驚いた顔で息を呑む。それを見て、ロイナートは言葉を続けた。
「そのリュート・ライアンの死が知れるという事は、我が国に侵攻する機会を与えるという事だ。17年前、リュート・ライアンは既に60歳を越えていたが、ジュール・ノウは歳をとらない――と、言われている」
「年をとらないって…どういう事だ?」
「魔人皇帝の右腕であるジュール・ノウは、皇帝から直接、生命エネルギーの付与を受け、定期的に若返りを繰り返していると言われている。ジュール・ノウは当時の強さのまま――いや、あるいはさらなる強さを身に着けている可能性もある」
ロイナートはそう言うと、少しソファの周りを歩き始めた。
「リュート・ライアンは所在不明、生死不明でなければならない。リュート・ライアンの死を知る諸君らには、この機密を絶対に守ってもらわねばならないのだ。――それはお父上に対してもです、シイファ嬢」
ロイナートがシイファの背後から、そう口にした。
シイファがゆっくりと振り返る。
「青の智賢であるお父様にも、知らせてはならないと?」
「もし事が知れたとしたら――私は、それなりの処断を下さなければなりません」
それなりってなんだ? 含みを持たせた言い方に俺は苛立った。
「……こいつらに何かあったら――」
俺は思わず、ロイナートを睨んだ。
「――俺の方も、それなりの行動をとる」
ロイナートが厳しい目つきで俺を睨む。俺たちは、しばし無言で睨みあった。
そこにシイファが慌てて声をあげる。
「ま、待って、判ったから。リュートの事を喋らなければいんでしょ? 元々、あたしとニャコはそんなに知ってる訳じゃないし。それが機密というなら、喋ったりしないわ。ね、ニャコ」
「ん~、じゃあ、ロックの事も拾ったことにするね」
ニャコはそう言うと、にかっと笑った。ロイナートが俺から視線を逸らす。
「ご協力と、お約束をいただき感謝します。――話はそれだけです。お帰りいただいて結構」
ロイナートにそう言われ、俺たちはソファから腰を上げた。シイファとニャコがドアに向かう中、ロイナートが声をあげる。
「キィ・ディモン、君にはまだ話がある」
俺は振り返った。ロイナートは静かにこちらを見ている。
シイファとニャコが不安そうな顔で俺を見た。
「先に行っててくれ。心配ない」
俺がそう言うと、二人は不安な顔のままだったが退室した。
ドアの閉まる音を聴いて、ロイナートへと向き直った。
「話とは何だ?」
「まず、君の『三尖の炎』を見せてもらおう」
ロイナートの言葉を受け、俺はロイナートを凝視した。




