3 入隊挨拶したら
「なら、俺つきの総務係ってことにするか。トッポとマルコの後輩ってことになるが」
あの二人か。縁があるものだな。
「それでいい。よろしく頼む」
俺がそう言うと、ヴォルガは狼顔で笑ってみせた。
*
翌日、俺は王都警護隊第五番隊の詰所に行き、庭に集まった隊員たちの前で紹介された。
「みんな、今度入隊することになったキィ・ディモンだ。キィは俺つきの総務係にする。みんな、仲良くやってくれ」
ヴォルガに促されて、俺はそこに集まった隊員たちを見た。
第五番隊は五班から構成されていて、一班の人員は大体五、六人。副隊長のレスターと、ヴォルガつきのトッポとマルコは、向かい側に立たず、こちら側にいる。班長たちを含めると40名弱が五番隊の隊員なのだった。
しかし明らかに、素行の悪そうな連中で、警察よりはチンピラ集団の方に印象が近い。しかも見た目がバラバラで、多種多様な連中の集まりだった。
一応、端から雑に並んでる感じで行くと、一班の隊長は巨人。3mはある。二班の隊長は四本腕。三班は――普通だ。というか、長い髪で細身の、とびきりの美女。四班は兎耳のついた美少年。五班は色が少し黒くて、耳が横に尖ったこれも美人だ。
これは――恐らく舐められてはいけない集団だろう。俺はそう判断して、素で挨拶することにした。
「キィ・ディモンだ。よろしく頼む」
俺は一応、頭を下げた。頭を上げる前に、声が飛んだ。
「隊長、こいつが例の奴なの?」
兎耳の美少年だった。背は小さく、子供にしか見えない。こんな歳で警護隊にいるのか、それとも見た目より年上なのか。兎耳少年は、薄ら笑いを浮かべている。
「なんか、レスターに充気相伝してもらったとかって――そんな素人で、警護隊が務まるの? 入隊条件はCランク以上でしょ?」
「キィの実力は充分だ」
ヴォルガの言葉に、兎耳少年は笑った。
「じゃあさ、その実力をちょっとみんなに披露してほしいんだよね。――オレが相手でいいよね?」
「俺は別に構わんが」
挑発的な兎耳少年に、俺はそう答えた。
隊員たちが一斉に散らばり、大きな円になる。俺と兎耳は、その中央に残された。
「ビットル、しっかりやれよ!」
「新人、気張れよ!」
あちこちから色んな声がかかる。俺の前に立つ兎耳の美少年は、上半身のシャツを肩までまくりあげ、裾に向けて広がったズボンをはいている。兎耳は、ピョンとその場で跳躍すると、不敵な笑みを浮かべた。
「オレは格闘家だから、このままだけど――そっちは何使ってもいいぜ。オレは上級格闘家だから遠慮はいらないよ」
兎耳の言葉に応じるように、ヴォルガが声をあげる。
「キィ、模擬刀を使うか?」
「いや、俺もこのままでいい」
俺はヴォルガに答えた。兎耳が、にやりと笑う。
「それじゃあ、行くよ!」
フッ、と気配がして目の前から兎耳が消える。と、既に俺の顔面めがけて後ろ廻し蹴りが迫っていた。
俺は横に動いて蹴りを躱す。と、すぐに回転のまま蹴りが右側頭部に襲い掛かる。俺は後退して躱す。と、背中を向けた兎耳が、縦回転で宙を舞った。頭頂部に蹴りが振ってくる。俺はそれを斜め後方に動いて躱した。それを追尾するように、横蹴りが飛んでくる。俺は両腕を十字に組んで、その蹴りを下つぶした。
間合いを取る。と、兎耳の美少年は、軽く微笑みを浮かべている。
「へえ、オレの四連撃を躱すとはね。なかなか、やるじゃん」
実際、この四連撃は流れるような動きで、一瞬のうちに行われた。少し前の俺なら、三つめ以降は躱せなかったはずだ。
だが、衝気を身に着けたことで、俺は身体の反射力があがり、動きに追いつく眼まで持っていることを実感した。
「ヒュ~、いいじゃねえか!」
「やるねえ、新人!」
俺たちの一瞬の攻防に、ギャラリーが盛り上がる。歓声を受けてか、戦意剥き出しの眼のまま兎耳が口角を上げた。
トン、と踏んでいきなりの横蹴り。早い。俺は躱す反応が間に合わないことを悟り、左前腕で蹴りをはたき落とす。すぐさま左頭部に上段回し蹴り。蹴り足がしなるような動きで襲い掛かって来る。
俺は戦いの中で、鍛冶屋のテオを追った時、足から発力した事を想い出していた。あの時のように足から発力をする、ただし今度はコンパクトに。




