第七話 警護隊に入隊したら 1 課題を克服したら
俺は、シイファとニャコ、そしてヴォルガとともにリュート・ライアンの葬儀を執り行った。
火葬にした後、その墓に遺骨を入れる。墓石は欧米風の丸い、低いものだった。
「リュートは……もう、自分があまり長くないと知っていたんだな」
ヴォルガの言葉に、俺は頷いた。それは、夜の烏を逮捕した翌朝、ロックを連れてリュートの家に行った時のことだ。
*
ロックは自分で歩けるくせに、ニャコに抱きかかえられてご機嫌だ。シイファは伝説の剣士に会いたいと言って、俺についてきた。
「――リュート先生」
俺は声をかけながら家に入る。だが返事はない。嫌な予感がしたのか、ロックがニャコの手から飛び降り、寝室に向かって走り出す。
寝室には、ベッドに身を横たえるリュートがいた。
「リュート先生、具合が悪いのでは?」
俺は傍によって跪くと、リュートに声をかけた。リュートが弱々しく笑う。
「うん。もうあまり時間がないようだね……。ディモン君、犯人は逮捕できたのかい?」
「はい。ロックや皆のおかげで、逮捕できました。先生、課題も解けるようになったと思います。けどそれより――ニャコ、先生を診てくれないか?」
俺の言葉にニャコが動くが、リュートは微笑して首を振った。
「治癒術では病気は治らないし、それに僕はもう充分だ。ただ、最後に君の課題を解決するところが見たい。庭へ運んでくれないか」
俺は頷いて、リュートを抱きかかえた。女性より細く、軽い身体で、俺は先生の死期を悟った。
シイファが用意してくれた椅子に、先生を座らせる。ニャコが傍で支えてくれていた。
「先生、見ていてください」
俺はそう言うと、鉄塊を持つ。線の前に立つと、波響石まで10m。俺は足から発力し、軽く宙に浮いた状態になると、一歩踏み出した。蹴り足から発力している俺は、滑るように石までの距離を急接近する。俺は大きく、鉄塊を岩に打ち付けた。
カアアアアンと、澄んだ音が響き渡る。俺はリュートの方を見た。リュートが静かに微笑んでいる。
「よくできたね…大したものだ。ロック、あの鞄を持ってきてくれないか?」
ロックが家に戻ると、大きな鞄を尾手に抱えて戻ってくる。それが傍に来ると、リュートは俺に言った。
「それじゃディモン君、最後の課題だ。それができたら、免許皆伝にしよう。――その大岩を、模擬刀を使って砕いてごらん」
ロックが模擬刀を持ってくる。俺はそれを受け取りながら、考えた。今までやってきた事を思い出す。
対象に重さを預けるようにする衝気の基本、そして全身のあらゆる箇所から発力する用法。それらを組み合わせただけでは、岩は破壊できない。そもそも、衝気を通しても破壊されないから、波響石は鳴っていたのだ。それを敢えて破壊する方法とは――
俺は模擬刀を構える。感覚的に、答えは判った。
衝気を岩の中心で、爆発させることだ。
打った瞬間に正確に中心を捉え、敢えて衝気を貫通させずに内部にとどめ置き、そしてそれを中心部で爆発させる。それを打った瞬間に行うこと。――それが恐らく答えだ。
だが、今の俺にできるのか?
俺は爆発呼吸をした。俺の周囲に熱気が上がり、前髪が揺れる。
できるはずだ。そうでなければ先生は、課題を与えたりしない。今、そこで見ている先生に、俺の答えを見届けてもらわなければ。
「破ァッ!」
俺は気合とともに、模擬刀を打ち込んだ。
キーンと、澄んだ音が響き渡る。
そして一瞬の後、大岩が細かい粒子になって、粉砕された。
「やった!」
「凄い、キィ!」
ニャコとシイファが歓声をあげる。俺はリュートの元に歩み寄った。リュートは静かに微笑んでいた。
「これでよかったですか、リュート先生」
「合格だ。それが無斬流の奥義、真解衝気だよ。末端からでも中心を穿ち、そこから全体に衝撃を与える技だ。心配しなくてもいいが、砕けたのは波響石だからであって、人体に使った場合は砕けたりはしない。ただ――ひどいダメージだけどね」
リュートはそう言うと、鞄を開けた。そこには鞘に収まった一本の剣と、一冊の本があった。リュートは剣を取り出すと、俺に差し出した。俺は剣を受けとる。
「君にその剣をあげよう。名をアースティアという」




