6 狼隊長と戦闘したら
「なんだ、魔人を見たことがないのか? 南域の田舎から出てきた奴か」
「ヴォルガ隊長、そいつが俺たちをやった奴です!」
「なに?」
トッポの声を聴いて、ヴォルガは俺を見る。そして少女二人に眼をやった。
「…手配中のニャコ・ミリアムとシイファ・スターチ。そして謎の男か。どうやら共犯者がいたようだな」
「俺は無関係だ」
「オレの部下を傷めつけといて、そんな話が通じると思うか?」
狼の顔が不敵な笑みを浮かべる。確かに、そうかもしれない。俺はもう充分、関係者になってしまった事を再認識した。
狼は舌なめずりをすると、鞘から刀を抜いた。ファンタジーによく出る両刃の剣ではなく片刃だったが、幅広で先の方がより太くなっている刀だった。
「痛い目をみてもらうぜ」
ヴォルガが動く。が、俺はその瞬間、拳を前に突き出した。
「火球!」
突進しようとしたヴォルガに火球が直撃し、爆発炎上する。が、その煙を切り割って、ヴォルガが姿を現した。
斬りかかるヴォルガの刀を、俺は横に跳んで躱す。その速さはトッポとは比べ物にならない。間違いない、こいつは一流の戦士だ。
横に跳んだ俺は、床に落ちていたトッポの棒を拾い上げた。リーチの長い武器の方が有利だ。追いついてきたヴォルガが、俺をバックハンドから横なぎに斬りはらう。その攻撃を棒で受けて、俺は棒ごと吹っ飛ばされた。
「くっ」
なんて威力だ。だが、棒の方もよく持ちこたえた。
間髪入れず袈裟斬りにしてくるヴォルガの刀を、俺は棒で僅かに受け流す。まともに受けると、衝撃がそのまま伝わってしまう。
大振りだが威力は恐ろしい相手の攻撃を、俺は躱したり流したりしながらなんとか防御する。だがその時、俺は気づいた。
遅い。俺自身の動きが、俺の知ってる動きより遅い。
もっと素早く動けるイメージのところで、微妙に間に合わない。それに間合いも遠い。高校を出て警察学校に入り、過酷な訓練を受けた後も、俺は逮捕術の稽古をした。その技は記憶にあるが、鍛え抜かれた肉体は失っている。身体は17歳ごろの、ひ弱だった俺に戻っているのだ。
隙をついて小手や肩に打ち込むが、案の定効いた様子はない。
「動きは悪くないが――気力がからきしだな!」
ヴォルガの刀の一振りで、棒が斬られた。俺は斬られた棒を捨て、自分の警棒を取り出す。
警察では逮捕術というものを訓練する。防具を着け、徒手・短刀・警棒・警杖という各武器を使って戦う。無論、模擬武器だ。それは同じ武器同士で戦う想定もあるが、異なる武器で戦う想定もある。特に徒手で短刀に対峙したり、警棒で警杖に対峙する場合は相手が犯人の想定で、敢えて不利な条件で戦うのだ。
ヴォルガの真っ向からの斬りつけを警棒で僅かに逸らせると、俺は左拳をヴォルガの狼顔に叩き込んだ。間合いの不利な時に敢えて深く入り込む、俺の得意技だ。だが、殴られたヴォルガは動じた様子もなく、じろりと俺を睨んだ。
「きかねえな」
重い衝撃が俺の腹を襲う。奴の前蹴りが、俺の腹部に蹴り込まれていた。俺はたまらず後方に吹っ飛ばされる。
「キィ!」
ニャコとシイファの声が聞こえた。
「おかしな奴だな。それほど訓練された動きをしていながら、気力を使わないとは。オレをなめてるのか?」
ヴォルガが刀を肩に担いで、俺を睨んだ。俺は腹部の衝撃にせき込みながら、身体を起こす。
「なめてるつもりはない…」
俺は右拳を突き出して火球を撃ち込んだ。と同時に俺は急進しながら、警棒を右手から左手に持ち替える。俺は膝を床に就くようにスライディングしながら、火球の爆発風の中へ低い姿勢で飛び込んだ。
俺は拳銃を取り出し、低い姿勢から煙の向うに見えるヴォルガを狙って銃を撃った。
一発、二発、三発。轟音が轟く。どうだ?
「――なるほど、こんな隠し玉を持っていやがったのか」
銃弾が床に落ちて乾いた音をたてる。ヴォルガは不敵な笑みを浮かべていた。トッポには効いた銃も、こいつには効いてない。
ヴォルガが刀を振りかぶって俺に斬りかかる。だが、それも想定していた。俺は敢えて接近しその右腕を捉え、背負い投げで投げた。
「なにっ!」
床に落ちたヴォルガの腹に、至近距離で最後の一発を撃つ。だが――
「残念だったな」
ヴォルガの右拳を左の頬に喰らい、俺は意識を無くした。




