10 謎の男が現れたら
「こいつらに、そんな話が通じるか! おれはお前を殺して此処を出た後に、こいつらを殺す!」
テオが俺の方へ手を出した。俺は警棒を前に振る。乾いた音がして、三日月刃が地面に落ちた。
「やめておけ。トリックが判っていれば、手品を見破るのはたやすいことだ」
「ほざけ!」
テオが剣を持って襲いかかってきた。
左の斬りつけ、右の横斬り、左下からの切り上げ、右横から胴払い、一度剣を引いて、喉への突き、胸、肩、腹、顔面。その攻撃を凄まじい速さで繰り出すテオの剣技は、確かに高い実力だった。だが俺は、その全ての攻撃を見切り、警棒で受け、弾き飛ばす。
「――テオが…あれほどの実力だと……」
リックの呆然とした声が聞こえる。そのすぐ後に、ランダーが低い声で呟く。
「しかし相手の男――何者なんだ…?」
俺は刑事だ――と答えてやるのも面倒で、俺は渾身の突きを放ってきたテオの攻撃を見切り、剣線を逸らしてテオの懐に入りこんだ。テオの胸に警棒をあてる。
衝気。
テオの顔に驚愕が浮かぶと同時に、その身体は後方へ吹き飛ばされた。そしてシイファの力場に当たって、地面に倒れる。テオはそのまま動かなくなった。
「やったぜ、兄貴!」
ガモフたちが歓声をあげた。だが、喜んでる場合ではない。俺は、テオにも例の目玉がないか調べようと近づいた。その時だった。
不意に――テオの傍の空間に、歪みが生まれる。
その歪みから、男が出てきた。
「な――なんだ?」
男は濃い緑のターバンを頭に巻き、やはり同色の戦闘服を身に着けている。その格好は一見すると、軍人のようだった。しかし眼を引いたのは、その頭部だ。
何かゴーグルのようなものを装着し、黒いバイザーの中心部が白く光っている。一つ目のように見えるゴーグルだった。
ゴーグル男はテオに近づこうとして、力場魔法に遮断された。
「バリアか――」
ゴーグル男は呟くと、両手を前に出した。
「グリード・ハンド!」
その手に、領域を作る力が吸収されている。
「ウソ! 力場魔法の力が、吸収されてる!」
高台から魔法をかけていたシイファが、驚愕の声を上げる。男は力場魔法を吸収し切ると、倒れているテオの腕を持ち上げた。
その右腕の内側に、やはり目玉がある。
「今回は回収させてもらうぞ」
ゴーグル男はそう言うと、一度手をかざして、その眼玉をつまんだ。今まで見たものより大きい。そこから眼玉を取り出す――と、それに連れて、蛇の胴体のようなものがニュルリと出てきた。
「貴様、何者だ!」
俺は発力して一瞬でゴーグル男に接近し、警棒で攻撃を仕掛けた。ゴーグル男は腰から大型のナイフを取り出すと、俺の攻撃を防ぐ。
俺はさらに追撃をしようとするが、ゴーグル男は警棒を受けた手を返し、逆に俺の手首に斬りつけてくる。それを察した俺は、すぐさま手を引いて距離を取った。
「ほう、よく躱せたな。――面白い」
ゴーグルの下の口に笑みを浮かべると、男はナイフを柔らかく持って構えた。と、俺の顔面に見えないほどの速さで突きがくる。俺は警棒でその攻撃を弾こうとする。――が、それはフェイント。ナイフは直角に急降下し、俺の腹部を狙ってきた。
「くっ」
刺される――と、思った瞬間、ゴーグル男は身を翻した。
男が躱した空間を、剣が走る。それは――ロックが尾手で振った剣だった。
「ロック!」
どうやら俺とテオの走りに、ついてきていたらしい。
「わふ!」
大した奴だ、助かった。ゴーグル男はにやりと笑う。
「透明になる犬か、それは厄介な相棒だ」
ゴーグル男はそう言うと、後退していく。俺は左手に警棒を持ち替えると、M360を取り出した。
「火炎弾!」
火炎弾を三発続けて発射する。しかしゴーグル男は、両手を前に出すと、その手の中に火炎弾を吸収した。
「面白い武器を持っているな。お前の名を聴いておこう」
「キィ・ディモンーー俺は刑事だ。貴様は何者だ?」
「フフ…グリード、と名乗っておくか……」
そうゴーグル男が笑う。と、その隣の空間が歪む。男はその歪みの中に分け入るように入っていき、その姿を消した。
俺は奴が去った後の、虚空の闇を睨んだ。
第一章完結です。新章は4月3日にスタートします。
よろしければ、おつきあいくださいませ。




